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あと、3日
しおりを挟むぱたぱたと洗濯物がはためく音。
手慣れた様子で洗濯物を干すスノーを何となく見つめていたフォグは、座っている大きな石の上に寝転がる。
「かたい・・・」
雲一つない青空を鳥が横切った。かわいらしい鳴き声が聞こえ、それが遠くなる。
ここにずっといたいな。
目をつぶれば、フォグの脳裏に浮かぶのは、兄の苦い顔だった。
昨日の夜現れた兄に、フォグはここに残ることを伝えた。その時にした兄の顔が頭に残る。
スノーがフォグを傷つけると思っている兄は、フォグをこの場にとどめておきたくないが、それを決めるのはフォグ自身だ。そして、兄の言葉通りに従うだけでなく、自分の心と向き合って答えを出すことはいいことだと、兄は思っておりそれ自体はうれしかった。
だから、兄はそれ以上口を出すのをやめた。
「こんなところで寝ていると、また風邪をひくわよ。」
「寝てない。」
フォグの顔に当たっていた日の光がさえぎられて、スノーの声が降ってきたのでフォグは目を開けた。
「もう大丈夫そう?今日は町に降りるんだけど・・・大丈夫なら一緒に行かない?」
「喉がイガイガするくらいだから、大丈夫。」
「うーん、ならのどにいい飲み物を作りましょう。それを飲んだら行くわよ。」
「わかった。」
家へと向かうスノーの後を追って、フォグは立ち上がった。
家から10分ほど歩くと、町に着いた。フォグがいた町と大して変わらないが、どこか活気があふれているようにフォグは感じた。
「おはよう、スノーちゃん。おや、そっちの坊やは?」
町に入って少し歩くと、向かい側から歩いてきたおばさんが声をかけてきた。
「おはようございます。親戚の子みたいで、この前手紙を持って家に現れたんです。どうやら、ご両親が亡くなったそうで・・・」
「まぁ、それは・・・それで、これからはその子と生活するの?」
「・・・はい、そう考えています。」
スラスラと答えるスノーを素直にすごいなと思い、自分と今後生活していくということをはっきり宣言してくれたのを、フォグはうれしく思った。
「坊や、名前は?」
「・・・フォグ。」
名前しか答えない、愛想のないフォグをフォローするように、スノーは
おばさんに笑顔を向ける。
「人見知りがあるみたいで、慣れるまで時間がかかると思いますが、よろしくお願いします。」
「もちろんよ!スノーちゃんの親戚だもの、大切にするわ。」
「ありがとうございます。」
「おいおい、そこの虫はなんだ!俺のスノーちゃんに、変な虫がついているじゃねーか!」
おばさんとの会話が終わったかと思えば、近くを歩いていたおじさんが突然怒鳴り上げる。だが、スノーが微笑みを向ければ、たちまちだらしのない顔になって、怖さが消えた。
「おじさん、おはようございます。」
「おう、おはよう、スノーちゃん。今日もかわいいねぇ。」
スノーの頭をなでるおじさんを見て、フォグは何となく嫌で、顔をしかめた。
それから、何人もの人に声をかけられ、そのたびに2人は足を止めた。
どれも、スノーに好意的で、フォグをいぶかしげに見た後、スノーの説明を聞いてフォグを受け入れる。といった感じだ。
何人かはおすそ分けなどと言って、何かしら物をくれた。
店に行けば、おまけだと言って、渡したお金以上に品物をもらった。
今までこんな状況を見たことがなかったフォグは、いい町なんだと納得した。それと、スノーが人気者だと分かって、感心すると同時に少しもやもやとした。
「どうしたの、フォグ?」
「・・・別に。」
「体調が悪いの?」
「大丈夫。」
そう答えて、体調が悪いと言えば、スノーを独り占めできるかなどと考えたフォグは、自分の考えなのにそれに驚いた。
どうすれば、このもやもやが消えるのだろうか。家に帰れば消えるだろうか?それまで我慢できるだろうか?
俯くフォグの視界に、スノーの白い手が映る。
「・・・」
「フォグ?」
立ち止まるフォグに気づいて、スノーも止まってフォグを振り返ってみた。
「・・・」
「大丈夫?やっぱり調子が悪いんじゃないの?」
「・・・大丈夫。大丈夫だけど・・・」
「だけど?」
「・・・手を・・・握っていい?スノーの手に触りたい。」
「!・・・はい!」
一瞬驚いたスノーだが、すぐに笑顔になって、フォグの手を掴んだ。そのまま手をつないで歩き出す。
「・・・」
つながれた手を見て、そのぬくもりを感じて、フォグは自然と笑顔になった。
胸のもやもやは、きれいすっかり消えた。
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