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3 最悪で幸せな日
しおりを挟む「やだ・・・」
恐怖で足が震えて立っていられたくなったユキノは、床に座り込んで頭を抱えた。
「嫌だ、死にたくない。やだやだやだやだ!」
見開いた目から涙がこぼれる。目を閉じるのが怖く、瞬きすらできない。目を閉じたら、そのまま死んでしまうかもしれないという恐怖。気絶も同じ。
声を出していないと、もう声を出せなくなるかもしれない。いろいろな恐怖がユキノを襲う。
「大丈夫だよ、落ち着いて。」
「死ぬんだよ!?死んじゃうんだよ!?何が大丈夫なの?嫌だ、いやいやいやいやいや!」
ユキノに近寄って、腰を下ろしたキリトがユキノの背をさすった。少しでも落ち着くようにと。
「確かに、死ぬよ。死ぬけど、それはすぐにじゃない。だから、少し落ち着いて?まだ時間はあるんだから、怖がってるだけなんて、もったいないよ?」
「やっぱり、死ぬんだ。いやだ、死にたくないよ。」
「猶予はあるよ。それも、2、3日なんて短いものじゃない。だから、いったん落ち着いて。残り時間は笑って過ごそう?」
「笑えるわけないじゃんっ!死ぬんだよ!死んだら、終わりなんだよ・・・」
自分で言って、絶望したユキノは、さらに泣いた。
「なら、そうやって絶望して、残りの時間を過ごすの?あと、6日もあるのに。」
「あと、6日・・・え?」
同じあざを持つ人と出会えば、すぐに死が待ち受けていると思っていたユキノは、6日という言葉に希望が湧いた。
「さっきも言ったけど・・・すぐ死ぬわけじゃない。ま、最後は死んでしまうけどさ。」
キリトは、ユキノが落ち着いたのを見図って、苦笑して死ぬことに変わりはないと言った。また取り乱すかと心配するキリトだが、ユキノは落ち着いたままだった。
「大丈夫そうだね。」
「・・・マシになったくらいだけど。すぐに死んじゃうって思っていたから、6日もあるってわかって・・・いや、6日とか少ないけど、なんか今はそれでも落ち着ける程度には安心できる日数だね。うん。」
「それはよかった。立てる?」
先に立ち上がったキリトが、ユキノに手を差し伸べる。ユキノは、その手を取った。
それを見て、悪魔はにやりと笑って姿を消した。
そして、ユキノはキリトと共に自分の家に帰っていた。家には、誰もいない。
リビングで、向かい合ってお茶を飲む。
「まず、謝らせてもらうね。ごめん、俺のせいで死ぬことになってしまって。」
「え?いや、それはお互いさまというか・・・キリト君だって死ぬんだし・・・気にしないでって言うのも変だけど、事故みたいなもんじゃない?」
「つまり、僕が加害者だと?」
「え、いやいや!そういうのではなくって!・・・災害みたいな。そう、災害。人ではどうしようもできない出来事だったんだよ。だから・・・このことでお互いに謝る必要はないと思う。」
「くすっ。わかった。なら、この話は終わりにして・・・ユキノさんのやりたいことを聞きたいんだけど、いいかな?」
「やりたいこと?」
「うん。6日のうちに、ユキノさんのやりたいこと全部やっちゃおうよ。ほら、死んだときに成仏できなかったら嫌だし。」
「ふふっ。なにそれ。だったら、キリト君のやりたいこともやらないと!キリト君も一緒に成仏しないといけないからね。」
「・・・そうだね。でも、まずはユキノさんから。いろいろ我慢してたんでしょ?」
「・・・」
やりたいこと。ユキノはそれに思いを巡らせる。
一番に出てくるのは、外に出られなかったこと。家と学校、コンビニの往復生活。こんな生活はもう嫌だ。そうだ、外食がしたい。
あとは、人と話したい。一緒にお出かけしたい。
友達が欲しい。
「・・・キリト君。」
「何?行きたい場所は決まった?」
外に出たいという思いはキリトも同じなのか、行きたい場所を聞く。だが、ユキノの望みは、それだけではないのだ。
「行きたい場所はいっぱいあるけど、そうじゃないの。欲しいものがあって。」
「欲しいもの?・・・貯金はあるから、俺が買うよ。あ、でも車とかは買えないかな・・・」
「・・・お金は、私が持っているからいいよ。でも、お金で買えるものではなくって・・・その、キリト君がよければだけど・・・友達になってくれる?」
「え、友達?」
「嫌?」
「・・・いや」
「嫌なの!?」
「いや、そういう嫌じゃなくて・・・俺たちもう友達だと思ってたんだけど、違うの?」
「・・・へ?」
呆然とするユキノに苦笑して、キリトはユキノの手を握った。
「はい。俺たち友達~ってことでいいかな?」
「・・・うん。そっか、もう友達だったんだ。」
自分の手を握るキリトを見て、頬が自然と緩むユキノ。
ずっと、同じあざのある人と出会えば、その日は最悪だと思っていた。
しかし、今日は最悪の日になるはずだったが、友達ができた幸せな日となった。
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