雪霧のライフゲーム

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
5 / 22

あと、5日

しおりを挟む


 熱い熱い熱い熱い

 フライパンの上に立っているような熱さ。転がされているような熱さ。フォグは、荒い息をついて、涙を流した。



 そこへ、ひんやりとしたものが額に乗る。



「フォグ・・・気持ちいい?」

「う・・・けほけほっ。・・・スノー・・・」

 目を開ければ、心配そうにこちらを見るスノーがいた。

 そこで、フォグは自分が熱を出しているのだと気づく。ここ最近調子が悪かったのは、この予兆だったのかと、妙に納得した。



 額の冷たさがなくなった。おそらく、ぬれタオルを置いてくれたのだろうが、自分の熱ですぐにぬるくなってしまうようだとフォグが考えていたら、そのタオルをスノーが取って、近くで水音が聞こえたかと思えば、また冷たくなった濡れタオルを置かれた。



「はぁ・・・」

「何か食べれそう?・・・果物なら食べられるかな。ちょっと待っていてね。」

 心配そうにフォグを見て立ち上がり、スノーは部屋を出て行った。そんなスノーの後姿を見て、フォグは昨日の夜のことを思い出す。



 やっぱり信じられない。スノーが、僕を苦しめるなんて。







 昨晩のこと。

 掃除した部屋に一人で入ったフォグは、すでに部屋にいる兄を見て驚いた。



「兄さん!?」

「静かに。あの子が来てしまう。」

「あっ・・・兄さん、本当に兄さんなんだ。けほっけほっ。」

「大丈夫?もうベッドに横になったほうがいいよ、ほら。」

 ベッドを指さした兄に従い、フォグは寝そべった。



「フォグ、よく聞いて。今日のところはここに泊まるしかないけど、明日になったらここを出るんだ。」

「なんで?せっかく居場所を見つけたのに・・・」

「あの子は、よくない。嫌な気配を感じるんだ。フォグのことは俺が守るけど・・・きっと、フォグはここにいたら傷つくことになると思う。あの子は、危険だ。」

「兄さん、よくわからないよ。あの子って、スノーだよね?スノーは、温かいご飯と寝床を用意してくれたんだよ?いい人だと僕は思うよ。」

「いい行いをするからいい人だとは限らない。まだ、出会って間もないうちに、別れたほうがいい。でないと、苦しむことになる。」

 そんなことはないと、兄に言いたいフォグだったが、そこまでスノーのことを知っているわけではないので、否定できなかった。



「・・・でも、ここを出てどうするの?」

「もう少し行けば町があるし、そこで居場所を見つければいい。」

「わかった。明日、出るよ。」

「うん、そうした方がいい。なら、明日に備えて今日は寝るんだ。そうだ、久しぶりに寝物語を聞かせてあげよう。」

 そんな子供ではないと、フォグは思いながらも何も口に出さずに目を閉じた。それは、聞かせてほしいという合図だ。

 兄は、いつも読み聞かせていた騎士の物語を語りだす。



 懐かしくて、温かくて、フォグの頬には涙が流れて、いつの間にか眠っていた。







「フォグ、起きて。果物を持ってきたわ。少しでも食べて。」

「ん・・・」

 目を開けて、起き上がろうとするが、だるい。



「そのままでいいわ。はい。」

 果物をひと切れフォークにさして、スノーはフォグの口に運ぶ。それを見て、フォグは口を開けた。



 ひんやりと冷たい、みずみずしくて甘い。



 おいしい。



「もっと食べてね。それで早く元気になって?今日は町に案内しようと思っていたの。そこで、あなたの着替えを買ったり、おそろいのコップを買ったりとか、いろいろ考えていたのよ。元気になったら一緒に行こうね。」

「・・・」

 楽しそうに話すスノーに、申し訳なく感じたフォグは困った顔をする。すると、スノーは、悲しそうな顔をして聞いた。



「私と一緒は嫌?」

「そんなこと・・・ない。」

「よかった!」

 たちまち悲しみの色は消えて、笑顔になるスノー。



 フォグは、自分自身を殴りたかった。

 期待をさせて、裏切るのか?なんてひどい奴だ。苦しめるのは、スノーではなく、僕だ。



 つらそうにしていたら、また額の濡れタオルを冷やすスノー。それを見て、迷うフォグ。



 ここを、僕の居場所にしてはだめなのだろうか?





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

大好きだけどお別れしましょう〈完結〉

ヘルベ
恋愛
釣った魚に餌をやらない人が居るけど、あたしの恋人はまさにそれ。 いや、相手からしてみたら釣り糸を垂らしてもいないのに食らいついて来た魚なのだから、対して思い入れもないのも当たり前なのか。 騎士カイルのファンの一人でしかなかったあたしが、ライバルを蹴散らし晴れて恋人になれたものの、会話は盛り上がらず、記念日を祝ってくれる気配もない。デートもあたしから誘わないとできない。しかも三回に一回は断られる始末。 全部が全部こっち主導の一方通行の関係。 恋人の甘い雰囲気どころか友達以下のような関係に疲れたあたしは、思わず「別れましょう」と口に出してしまい……。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

処理中です...