雪霧のライフゲーム

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
2 / 22

1 あざのある者たち

しおりを挟む


 チャイムの音が響き渡る。



「起立。・・・さようなら。」

「「「さようなら」」」

 40人前後の学生が、一人の教師に対して別れの挨拶をし、頭を下げた。その光景が異様だと頭の片隅で思いながら、顔を上げる男子学生。



 彼は、愛されている。



 わっと集まる人。男女問わず、口々に彼を誘うクラスメイトに、彼はにこやかに答えた。



「みんなありがとう。でも、先生に呼ばれてるから。また今度誘ってよ。」

 笑顔で、嘘をつく。誰も嘘だと気づかず、彼は解放された。



 職員室へ行くふりをして、彼は屋上へと上がる。

 それに続く黒い影。彼はそれに気づかず、誰も気づかず、黒い影も彼について屋上へと行く。



 誰もいない屋上で、彼はフェンスに手をかけて、グラウンドを見下ろす。

 運動部が活動を始める準備をしているが、人はまだまばらだ。あと10分もすれば、学校のグラウンドらしい掛け声などが上がるだろう。



「お前に、良い知らせと悪い知らせを持ってきたぞ。」

「・・・悪魔か。」

 背後から唐突に聞こえた声に驚くも、その正体を理解し顔をしかめる。



「知らせは一つだ。お前と同じあざの持ち主と、明日出会うだろう。どうだ?良い知らせで、悪い知らせだろう?」

 ケタケタと笑う悪魔の方は見ずに、彼はつぶやいた。



「それは、悪い知らせだ。相手にとってはな・・・」







 冷たい家。

 一人、リビングに立つ少女が、自身の家をそう話したことがある。



 机に置かれたお金は、今日の晩御飯を買うためのもの。メモも何もなく、ただお金だけが置かれている。



「どこのホテルでディナーするのかな、本当。」

 お金を手に取って、ため息をつく。十分すぎる金額だが、愛情あってのことではない。ただ、この家にはお金が有り余っているのだ。それだけのこと。



 持っていたビニール袋を机に置き、ポケットから財布を取り出して、お金を無造作に突っ込んだ。



 毎日毎日、朝と晩に置かれるお金。それは、休日だって同じで、一緒に食事をしたのはもう数年前の話だ。彼女は事情があり、人とかかわるのを嫌がる。なので、外に出ることもほとんどなく、仕方なく学校に通うのと、コンビニでご飯を買う程度しか外に出ない。なので、お金はたまっていく一方だ。



 だが、お金では彼女は満たされない。



 冷たい家と呼んだが、彼女自身の心も冷え切っていた。



 親しい友も作れない彼女は、寂しさにうずくまる。



「全部、このあざのせいだ。」

 心臓のあたりを抑えて、彼女は苦しげにつぶやいた。そこには、いびつな丸いあざがある。まるでどくろの様なシルエット、呪いのようなあざ。実際それは呪いのようなものだ。



 同じあざを持つ人物と出会えば死ぬ。

 それが、このあざの意味だと悪魔は笑って教えてくれたのだ。



「ケタケタケタ。いい顔をするなぁ、本当に。」

 背後から唐突に聞こえた声に、彼女は振り返って苦い顔をした。



「悪魔・・・」

「いいねぇ。俺はこっちの方が好みだな。」

 彼女の目の前には、黒い影に赤い口と目をした悪魔がいた。その悪魔は、椅子に移動し、彼女に掛けるよう促した。

 立っていても仕方がないので、彼女は悪魔と対面の椅子に腰かける。



「お前の悩みも、明日で終わりだぜ。」

「・・・それって、あざが消えるの!?」

「ケタケタケタ!そんなわけあるかよ!本当、面白いなぁ!お前の悩みが消えるってのは、簡単な話だ。お前は、死にたくないから、あざを持っている人間と会いたくない。だけど、そのせいでいろいろ不自由しているのが悩みなんだろ?」

「そうだよ。外に出れないから、友達も作れないし・・・友達ができれば、こんな家にまっすぐ帰ることもない。友達がいなかったとしても、私は家を空けるつもりだけどね。」

 あざを持つ人と会わないために、なるべく人を避けていた。完全に安全なのは家だけで、他は危険だ。学校ですら安心できる場所ではないため、私は帰りたくもない家にまっすぐ帰っている。



 学校では、クラスが比較的安全だ。それは、お互いに一度顔を合わせているから。彼らの中にあざを持つ人がいないのは、私が生きていることで証明されている。



「そう、その悩みが明日から解決だ!喜べよ、明日から外に出かけたい放題だぞ。」

「でも、あざは消えないんでしょ?・・・それとも、あざのある人間が死ぬの?」

「おっ、正解だよ。よくわかったな。」

「・・・それくらいしかないでしょ。私のあざが消えないのに悩みが解決するってことは、あざのある人間が死ぬ・・・その人には悪いけど、ほっとした。私、死ななくていいんだ。」

 彼女の顔が緩んだ。張りつめていたものが解けた今の彼女なら、友達もできることだろう。

 そんな彼女の様子を見て、悪魔は面白くて仕方がなかった。



 明日、この顔が絶望に染まる。見ものだなぁ。



 悪魔がそんなことを考えているとはつゆ知らず、彼女は明日を乗り越え、不自由で冷たい日々を終える決意をした。



 自身が勘違いをしているとも気づかずに。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

大好きだけどお別れしましょう〈完結〉

ヘルベ
恋愛
釣った魚に餌をやらない人が居るけど、あたしの恋人はまさにそれ。 いや、相手からしてみたら釣り糸を垂らしてもいないのに食らいついて来た魚なのだから、対して思い入れもないのも当たり前なのか。 騎士カイルのファンの一人でしかなかったあたしが、ライバルを蹴散らし晴れて恋人になれたものの、会話は盛り上がらず、記念日を祝ってくれる気配もない。デートもあたしから誘わないとできない。しかも三回に一回は断られる始末。 全部が全部こっち主導の一方通行の関係。 恋人の甘い雰囲気どころか友達以下のような関係に疲れたあたしは、思わず「別れましょう」と口に出してしまい……。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...