永遠の少年ヘ

製作する黒猫

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 唐突に消えた村の代わりに現れたのは、先ほどの林。降り注ぐ太陽の光は赤くなっていて、夕暮れの景色になっている。村で見たのと全く変わらない夕日。

 変わったのは、村か林かというだけだった。



「何だったんだろう?」



 疑問には思ったが、頭で考えても答えは出ないだろう。考えるのはやめて、私は家に帰ることにした。







 楽しかった。別に特別なことはしていない。ただ、村であった少年と一緒にかくれんぼをするために納屋に隠れていただけ。何も特別なことなどない・・・唐突に村が現れたり消えたりしたことは不思議だったが。



 でも、そんな楽しいことも終わってしまえば、いつものつまらない日常に戻ることになる。



「宿題、面倒くさいな・・・」



 夕食を終えた私は、勉強机の前に座ってため息をついた。

 理由はもちろん、目の前の宿題にある。全国の学生を苦しめる宿題・・・漢字・英語を繰り返し書くという、苦行がそれぞれ一ページ。数学のプリント1枚。これが今日のラインナップだ。ちなみに、だいたい漢字と英語は毎日一ページずつ書かされていて、プリントは曜日によって教科が変わる。

 数学は、私の一番嫌いな教科だ。

 なぜなら・・・



「これって、どう計算するの?計算の仕方が分からないよ・・・」



 笑われてしまうかもしれないが、私は分数の計算ができない。あの数字が板をもってその上に数字が乗っている奴、意味が分からないのだ。

 なので、私はいつも分数の計算をすることを諦めているが、このプリントはなんと・・・すべてが分数の計算だった・・・



 いや、なんで!?

 だいたい、分数の計算なんて、小学生とか中学生とかの・・・そう、高校生がやる問題じゃないでしょ!なのに、なんでこいつはいつまでも・・・!



 足し算・引き算はいいが、そこに分数が加わるのは本当に許せない。

 分数は、本当に理解不能だ。だけど、いまさら分数のことを聞くのも嫌だし、理解する気はない。一生、こいつのことは理解できると思えない。



「・・・仕方がない。」



 私は、数学のプリントを前にしてシャーペンを持っていたが、それを置いた。



「できるなら、この手は使いたくなかったけど、時間の無駄だからね。」



 私は右手に赤ペンをもって、プリントの問題すべてをバツにして、答えを書き写した。真っ赤になった数学プリントをクリアファイルにしまう。



「さて、気を取り直して・・・これも嫌だけど、何も考えなくていいからこっちのほうが楽だよね。」



 漢字練習帳を開いて、指定されたページの画数が少ない漢字を10個選んで、ページを埋めていく。

 そんな感じで、漢字と英語の宿題を終えて、私は風呂に入ることにした。



「今日は・・・疲れたな。」



 楽しかったけど、少しだけ疲れてしまった。

 あぁ、楽しかったのはもちろん宿題じゃないよ?村に行って、少年とかくれんぼをしたこと・・・本当に、私はかくれんぼしたのかな?



 さっきの出来事は夢だったのではないかという気がしてきた・・・



 いつもならアプリゲームをやるところだけど、今日はもう寝よう。





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