伝説の剣が抜けないのは、明らかにアレのせい

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
1 / 2

ストッパー

しおりを挟む

 突然だが、伝説の剣と言われてどのようなものを思い浮かべるだろうか?俺は、目の前にあるような、石畳に突き刺さった剣を思い浮かべる。





 ここは、一言でいうなら異世界。中世ファンタジーの世界と言えば、察しのいい奴はわかるだろう。そして、それを話している俺の正体も。





 そう、俺は前世持ちの人間、トーマスだ。異世界転生というやつを経験して早17年。いまだに俺の隠されしチートは目覚めない。







 今日は、勇者選定の日で、俺はあの剣を引っこ抜けるかどうか確かめに来たのだ。あ、これ強制だから。別に、俺が勇者になってやるとか、思ってきたわけじゃないから。





 なんとなくわかると思うけど、あの突き刺さった剣を抜けたやつが勇者らしい。





 俺は、自分の番が来るまでおとなしく列に並んでいた。何人もの人が伝説の剣に挑んだが、誰一人として剣を抜けた者はいない。いたら、俺はここに来ていない。





 ちょうど次の挑戦者が挑むところだ。俺の前にいる人数もだいぶ減り、あと8人だ。だいぶ前にきたおかげで、その様子がはっきりと見られるようになった。





 剣は石畳に垂直に突き刺さっていて、よく見れば、ストッパーのようなものが剣を掴んでいた。あれでは抜けないだろう。



 俺の予想通り、挑戦者は剣を抜けずに、その場からとぼとぼと去っていった。





 あのストッパーを外さないと、誰も抜けないじゃないか?



 冷たい汗が流れた。もしかしたら、勇者はもう挑戦していたのではないかと。





 一番の勇者候補と言われていた王子を思い出す。



 もちろんこの国の王子で、文武両道、国民の信頼は厚く、この前は辺境の村を襲った竜を倒したとか。自由だな王子。



 その王子が、一番に伝説の剣に挑んだが、見事失敗。それから騎士団長、騎士、兵士と挑戦していき、遂に平民まで順番が回って来てしまった。





 どう考えてもあのストッパーのせいだとしか思えない。どうしよう。





 気づいてしまったのなら、言わなければならないと思う。でも、それで抜けなかったら大恥だし・・・俺が抜くか?いやいや、勇者とか重い。俺の肩には重すぎる肩書だ。





 そうこう考えているうちに、俺の前も残り一人になった。





「なぁ、トーマス。俺って、このために転生したのかな。」



 そう声を掛けてきたのは、俺の前にいる前世持ち仲間、ガーストだ。彼は俺と違ってチートを持っている。その名も「無限スタミナ」。本当にこれは怖い。全然疲れないんだよ、こいつ。持久走とかいつまでも走っていられるし。





「そうかもな。」



 確かにそうかもしれないとは思う。もしかしたら、彼ならストッパーが勝手に外れて剣を抜くことができるかもしれない。そう思ったら、イラついてきた。





 なんでこいつばかり。チート持っているだけで、ずるいだろ!





「あ、俺の番だ。またな、トーマス。」



「あぁ、頑張れ。」



 失敗しろ。



 俺はかなり性格が悪い。心からの応援は出来ないんだ、悪いな。





 ガーストは剣を手に取って、引っ張った。ストッパーがカタカタと震えているのを見て、まさか、と思う。



 しかし、それ以上のことは起こらず、俺の番が来た。来てしまった。





 俺は剣の前に立つ。



 ストッパーの外し方がわからないのなら、俺も剣を抜くことは出来ないだろうと思っていたが、俺はすぐにそれに気づいた。いや、気づかない方がおかしい。





 剣の柄の部分に、小さなスライド式のスイッチがあった。それには「LOCK」と書いてあった。おい、前世持ちぃぃぃぃっ!





 どくどくどく、心臓が嫌な音をたてる。





 俺は、この剣を抜ける。





 伝説の剣を抜きますか?YES/NO





 まずい、選択肢が現れた。それも、時間制限ありだ。



 なかなか剣を抜こうとしない俺に、見張りの兵士からの視線が突き刺さる。





 勇者、俺になれるのか?



 何の取柄もない俺が、勇者になっていいのか?





 よくない。でも、俺はそんな常識を凌駕する欲望に身を任せた。





 俺だって、主人公になりたいんだ!







 ストッパーが外れて、俺は重い剣を抜き始めた。だが、何の取柄もない俺では、剣を抜くのに時間がかかった。それでも、周りの人々は少しずつその姿をあらわにする伝説の剣と俺に期待を寄せた。





 おそらく、10分はかかっただろう。やっとのことで剣を抜いた俺は、その日勇者となった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...