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59 半魔族
しおりを挟むここで馬車の旅は終わりだよ。
そう言って、馬車を下りた町は・・・あの町だった。
特に特徴のないその町を覚えていたのは、あの男を見かけた町だったから。
「どうして?」
「この町からは、王都と逆方向に行くことになるから。」
「そう・・・」
なぜ、馬車の旅が終わりなのか?そのようなことは、どうでもよかった。問題は、なぜこの町に来たのか?たまたまなのか?
神様に言われているような気がした。あの男を殺せと。
気づけば、親指でユズフェルトからもらった指輪に触れていた。
この指輪さえあれば、おそらくあの男を殺すなんて造作もないことだ。あとは、殺した後どう動けばいいのか・・・
冷静になって考えれば、町中で人を殺すなど考えなしだ。あの男もそうしたように、人気のない場所におびき出して、殺すのが妥当。
だが、おびき寄せる手はない。まず、あの男を見つけることが難しく、私自身も一人になることが難しいので、最初から躓いている。たとえそれをクリアしたとしても、おびき寄せるところで躓く。
殺すことは、できてしまうのに。
「シーナ。」
「・・・何?」
「少し散歩しないか。この町はあまり周っていなかったし・・・ま、何もないところだから周らなかったのだけどな。ここずっと馬車の旅だから、身体も動かしたいだろう?」
「そうだね・・・まだ日も出ているし、少し歩こっか。」
「あぁ。」
「それでは、後は若いお2人さんで・・・ナガミは、宿直行だろう?アムは、食べ物の買い出しに行くの?」
「私も、2人に付いて行こう。本を読めたのはいいが、身体がなまって仕方がない。」
「珍しいね?」
「まぁな。」
確かに、ナガミは一人でいることが多く、町でもほとんど別行動をとっている。一緒に来るとは思わなかった。
だが、いつもと違うのはナガミだけで、アムは一人で買い物に行った。今日食べる自分の夕食を買いに行ったのだろう。大食いは大変だ。
「それじゃ、アーマス頼んだぞ。」
「まかせて~」
「・・・」
宿を確保するアーマスと別れて、私達は適当に町を歩き始めた。
いくつかの店が並ぶ場所では、おなじみとなった串焼きも売っていて、これまた珍しくナガミが3本買う。私とユズフェルトの分まで買ってくれたのだ。
「ありがとう。一体どうしたのだ?」
「何が?」
「いや、付いてきたこともそうだが、おごってくれるなんて・・・めったにないからな。」
「これは、2人のデートを邪魔したお詫びだ。シーナも遠慮するな。」
「うん、ありがとう。・・・え、デート?」
聞き捨てならない単語が出てきたが、ナガミはユズフェルトと話し始めてしまって、否定できず放っておくことにした。
串焼きを食べ終わり散歩を再開すると、賑やかな店が並ぶ場所から離れていって、家が並ぶ静かな場所にやってきた。
他の町に行ったときこういう場所には行かなかったので、なぜ家しかない方へ行くのかわからない。散歩だからだろうか?
「ユズフェルト、こちらには何もないようだが?」
「そうだな。だが、静かでいいと思わないか?たまにはこういう場所に来るのもいいかと思ってな。町に来ても騒がしい場所しか行かないから。」
「用もないのにこういう場所に行くのは・・・あらぬ疑いをかけられるぞ。」
ナガミが言ったことは本当のようで、すれ違う町人からは不審な目を向けられる。
確かに、旅人がこのような場所に来ることはめったにないだろう。親類でもいない限り。
「嫌なら戻ればいい。行こう、シーナ。」
「どこに?」
「行くな。」
手を引っ張るユズフェルトに、私の反対の手を引っ張って止めるナガミ。一体どういう状況なのかと首を傾げた。
もしかして、憎い男のことを考えていて、大事なことでも聞き逃した?
「一体何の真似だ、ナガミ。」
「お前こそ、何を企んでいる?少し前から・・・アーマスを使ってこそこそと動いて、何を企んでいるのだ?」
「企む?」
「とぼけるな。」
私を掴んでいない方の手で、私を掴むユズフェルトの手を外すナガミ。
私の背をユズフェルトとは反対の方へと押す。
「・・・」
「シーナ、来た道を戻れ。」
「え?」
「何かあれば、その腕輪を使えば大丈夫なはずだ。腕輪だ、わかったな?」
「どういうこと?」
「いいから行け。腕輪だ、わかったな?」
使うのは腕輪だと再度強調し、さっさと行けと手を虫でも払うかのように振られた。
意味が分からず、ユズフェルトの方を見るが、彼とは目が合わなかった。
特に彼が何も言わないということは、私がどう動いてもいいということなのだろう。なら、とりあえずはナガミの指示に従おうと思った。
今までこのような行動をナガミがすることがなかったので、何か理由があるのだろう。
私は走り出した。
「お前はいったい何を考えている、ユズフェルト。」
「何って・・・シーナの思う通りにしてやりたいと思っているだけだ。」
「思う通り・・・か。それは、シーナにしっかりと聞いたのか?聞いていないだろうな・・・いや、聞くだけでは駄目だ。お前たちは、その思う通りにしたらどうなるのか、話すべきだろう。」
ナガミは、今までにないほど鋭い目つきで、ユズフェルトを睨みつけた。
「人を殺したら、魔族になる。そうなったら、ここでは生きていけないんだぞ!」
「それ、何か問題があるのか?」
何も問題がないように言うユズフェルトを、ナガミは殴り飛ばそうとしたが、避けられてしまいそのまま転ぶ。
「くっ・・・」
「人間の世界だって、魔族の世界だって、変わりない。シーナからすれば、おんなじ異世界だ。」
この世界には、人間と魔族がいる。
人間は、人族と区分される人間、エルフ、ドワーフなどいくつか分類はあるが、人間とひとまとめにされる。
魔族は、総じて魔族。一つの特殊能力を持って生まれる種族で、容姿は人間とほとんど変わらない。この状態の魔族は、半魔族と言われる。
その半魔族は、人を殺すことによって魔族となり、膨大な力を手にする。
人間と魔族が共存できないのは、そういう理由があった。
「やはり、半魔族だったか・・・」
ユズフェルトが否定しないことによって、ナガミはシーナが半魔族であることを確信した。
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