死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

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23 移動イベント

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 そうか、今の時間帯は移動イベントがあった。どこにいくかという選択肢の中から行く場所を選び、そこで攻略対象者と交流するというもの。もちろんはずれもあって、はずれの場所にはモブたちの会話イベントというものがあった。

 その中にペンデと遭遇するというものがある、ちょうどそれに当たったのだと、なんとなく思ってそれた思考をペンデに向けた。



 ペンデからは違和感を感じない。だからと言って、この世界がおかしいと思わないかなど聞けるわけはないので、アイモアに聞いたのと同じことを聞いた。



「会長は、エン様について何か聞いていますか?」

「あぁ・・・何も聞いていないよ?周囲は殿下を賛美することしかできないみたいで、不満を口にすることもないし、今どうしているのかを聞いたこともないね。」

「そうですか。」

 やはり、ゲームと同じだ。ゲームでも、攻略対象者のちょっとしたうわさ話が聞けたりするが、それも選択式で洗濯しても噂がない場合もある。その時は、先ほどのアイモアのように、噂はないと終わる。あった場合は、たわいもない日常の話が出て、それもすべて好意的なものだ。ただ、ミデンのうわさ話を聞く場合は悪意に満ちたものが聞けるが・・・私自身がミデンなので、それを確認することはできない。



「そういえば、殿下の弟君のことを聞いてきた子がいたよ。次は殿下のことを聞かれたりして・・・」

「殿下の弟・・・デュオ様のことですか?でも、デュオ様と親しい間柄なんて限られていますし、そもそもデュオ様と会ったことがない方の方が多いはず・・・」

 城で本ばかり読んでいたデュオの交友関係は狭い。ほぼエンと護衛のテッセラ、私・・・一応兄、くらいしか何度も顔を合わせている人間はいないはずだ。一体だれが?



 そもそも、なぜそれをペンデに聞くのだろうか?いくら生徒会長と言えど、一生徒・・・いや、今回は生徒でもないデュオのことをなぜペンデに?まだ私に聞いてくる方が理解ができる。



「おそらく、会ったこともないはずなんだけどね?そういえば、テッセラ嬢のことも聞かれたよ。なんだか月姫の周りにいる人ばかりを探っているね。そんな気がしたから僕もテイトーに答えておいたけど・・・」

「誰が、会長にそのようなことを聞いてきたのですか?」

 私を探っているようだとペンデは言うが、私は別の共通点を意識してしまう。デュオにテッセラ・・・もしかしたらエンのことも聞いてくるのだとしたら、それは私の友達かもしれない。



「・・・赤い髪の、おそらく月姫と同じ学年の女性だったよ。名前は・・・名前には確か光の魔法の使い手のFが入っていたかな・・・」

「そうですか。心当たりがあるので、私から探ってみることにします。ありがとうございました、ペンデ様。」

「たいしたことはしていないよ。月姫と話すのは楽しいから、また聞きたいことがあったら何でも聞いてね。」

「・・・そのうち、またお話しに来ます。」

「待っているね・・・ずっと。」

 別れの挨拶をしてペンデから離れる。私の頭には1週目の親友の顔が浮かぶ。赤い髪に、赤い瞳・・・トゥリア・F・エナトン・・・アリスモスの恋のヒロインの名前だ。



「トゥリア・・・もしかして・・・」

 逆向・・・そう呼べる現象なのかはわからないが、1週目の記憶を持つのは私だけだと思っていた。でも、もしかしたらトゥリアも私と同じなのかもしれない。

 学園で会えると思っていたデュオに会えず、テッセラの姿も見えなくなったと思えば、次はエン・・・もしもトゥリアが1週目の記憶を持っているなら、さぞかし不安な思いをさせているだろう。



 殺そうと思っていたのに、今の私は何も考えずにトゥリアがいそうな場所を転々と探している。

 一人だけ1週目の記憶を持っていると知った時、私は孤独を感じた。それは、1週目に感じた孤独の比ではない。いや、今回感じたのは孤独というよりも、死別に近い。



 私だけが、兄との温かい日々を覚えている。エンとの出会い、好意を持ってもらうための努力。デュオとテッセラをくっつけようと頑張ったり、テッセラから思いを打ち明けられて一緒に頑張ったり、そんなあたたかい思い出がこの世界では私一人の胸にしかないのだ。



 死んでいない、また会えたという喜びの後には、1週目はどこにもない、終わったこと・・・いや、消えたことなのだと知って、胸が引き裂かれる思いをした。

 でも、それ以上にもう一度死ぬのが嫌で、その感情を無理に押し込めて、死なないためにはどうすべきかと考えて・・・

 いつの間にか、自分がみんなを恨んでいることに気づいた。



 デュオがくれるというネックレスを受け取って・・・その結末を望んだ。

 テッセラに聞いたことを報告して・・・その結末を望んだ。

 エンは、衝動で殺した。だからと言って、エンを殺すことが私の意思ではなかったなんて、言い訳は言わない。だって、私はずっと心の中でエンをねたんでいた。



 未来を疑わなくていいエンの運命を。

 1番を婚約者にできる幸せを。

 エンの恵まれた環境をねたんで、私は彼を殺した。たまたまスカートの中にあったナイフで、たまたま護衛が離れていた状況で、私が殺せる絶妙なタイミングを活かして、殺した。



 頭を振って、思考を霧散させる。

 とにかく、今はトゥリアに会いたい。殺したいのではなく、会いたかった。



 もしもトゥリアが私と同じなら・・・

 もっと、早くに気づきたかった。









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