死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

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21 崩れる

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 アリスモスの恋は、ヒロインのためにある世界で、ヒロインと攻略対象者が幸せになる世界だ。そんな世界の理が崩れ始める。



 危機一髪で助かるはずのデュオは意識不明。友情エンドが用意されていたテッセラは、消息不明、エンの言葉を聞く限り死んだ。エンも、死んだ。いや、私が殺した。

 殺すつもりはなかった・・・今日は、と頭には付くが、今日は本当に殺すつもりはなく、私の目的はこの後のデュオの面会にあった。

 今デュオがどのような状況に置かれているのか、本当に意識が不明なのか?回復の見込みはないのかなどの疑問を少しでも解消しようと思っただけなのだ。



 それがどうだろうか、エンを衝動的に殺してしまった。これでは駄目だ、明らかにエンを殺したのが私だと気づかれる。

 私がヒロインと攻略対象者を殺すことには問題はないが、それが周囲にばれてしまうことは防がなければならない。



 今の状況は、エンが人払いして護衛もいない中、私とエンの2人きりでいる。そんな状況で片方が死んだとしたら、もう片方が容疑者だろう。これでは駄目だ。

 どうしようかと悩んでいると、背後からカサリと物音がして振り返った。



「ミデン・・・」

「お、兄さま・・・」

 何の対策もできないまま、私の目の前に兄が現れた。これでおしまいかと、覚悟を決めたが、私の目に映った兄の顔は笑っていた。血を流す王子が目の前にいるというのに、いや王子でなくても血を流している人間がいるのだ、笑うのはおかしいだろう。



 私は兄が来たときにこれから捕まって、処刑でもされるのかなと思ったが、そんなことは兄の顔を見れば吹き飛んで、身体が恐怖で震え始めた。兄が笑っている理由がわからない。



「エン様は、よく眠っておられるようだね。」

「・・・え?」

 私はエン様の方へと視線を戻した。死んでいる。だらりと力の入っていないからだに、血の気の通っていない顔色、流れだす血・・・そうか、兄からは私の影になってこの様子がよく見えていないのか!?

 だとしてもバレるのは時間の問題だともったところで、どこからかまたカサリと音が聞こえて私は兄の方へと視線を戻す。聞こえるのは兄の後ろから・・・



 そこで意識が途絶えた。







何の冗談か、私とエンは誘拐されたことになっていた。そして、その際エンは死亡、私は近くの小屋で意識不明のところを発見されて、自室で目覚めたということになっている。訳が分からない。



エンは、私が殺したのに・・・一体どういうこと?

誘拐犯というのは、あの時兄の後ろから聞こえた人の気配がそれだったの?でもだとしたら、兄も誘拐されているか何かしらの怪我を負っていてもおかしくはない。それなのに、兄は傷一つなく、しかもずっと馬車にいたことになっていた。



まさか・・・いや、まさかだろう。兄がそんな、妹の犯罪を隠すなんていうことはないはずだ。いくら好感度が高かったとしても、まさか殺人犯をかばったりはしないだろう。それに、護衛だっているのだ。

嘘をつくには、護衛数名と共犯でなくてはならない。それはかなり難しいことに思えた。



「都合がいい・・・かな。とにかく、私は容疑者ではなく被害者のようだし・・・」

 これ以上不用意な行動をとれば怪しまれると思うが、一時はしのげたので良しとしよう。問題は、これからのことだ。



 残ったのは、ヒロインと兄、意識不明のデュオの3人だ。ヒロインは、運がよくて助かったという描写のイベントがいくつかあるが、兄はそういったものはないし、デュオはもうすでにゲームのシナリオから逸脱してしまい、ゲーム知識を使うことは不可能となっている。



 一番殺しやすいのはヒロイン・・・トゥリアだ。なんとなく、他の攻略対象者がいざという時に守るのではないかと思ってしまいしり込みしていたが、今の状況でトゥリアを助けられるとしたら兄しかいない。デュオは学園に通っておらず、意識すらない状態だ。守れるわけがないし、そもそも出会ってすらいない。



 なら、警戒すべきは兄だけ。本来ならその兄も排除した後の方がいいのだが、兄は裏攻略対象者なだけあってスペックが高く、殺すのが容易ではない。

 今のところトゥリアは兄と接点がないようだし、ならばトゥリアから片付けたほうがいいだろうと答えを出した。



「トゥリアの次は・・・デュオ・・・最後に・・・」

 兄を殺せば、終わる。私に兄が殺せるのか・・・そもそもデュオにとどめはさせるのかという問題もある。だけどもう後戻りはできないところまで来てしまったのだ。あとはもう、殺すしかない。



 そういえば、今回のトゥリアの好感度は上げていない。でも、殺すだけならトゥリアの好感度を上げる必要もなかった。運がいいトゥリアは、本当に運がいいのか疑われるほど身の危険が迫ることが何度もある。そのどれかの運を除いてやればいい。



 例えば、倒れてきた本棚・・・ぎっしりと隙間なく本が詰められていて、棚と棚の距離もあまり離れていなかったために助かった。

 エンの婚約者と間違われ暗殺されかけた時、草に足を引っかけて転び、その攻撃を避けることができた。



 学園に侵入した魔獣が侵入し、一般生徒を守って自分の守りまで手が回せなかったとき、他の攻略対象者がちょうど駆け付けた。



 もうすぐ、学園に魔獣が侵入する時期だ。

 その時に兄を拘束することができれば・・・トゥリアは死ぬかもしれない。はっきりと死ぬとは言い切れないが、一人で魔獣の相手をすればただではすまない。それも、自分の守りがおろそかになる状況ならなおさら・・・



 人を助けるために、魔獣の攻撃を受けそうになったトゥリア。私はそんなトゥリアの助けを、故意に止めようとしている。

 どちらにせよ、ろくな死に方をしないだろう。



 私が学園を追放され死ぬ予定の日を乗り越えたとしても、たくさんの犠牲を出した私がろくな死に方はできないだろうことは予想がつく。

 それでも私は、殺すことにした。



 次はトゥリア。この世界のヒロインで、私の1週目の友人だ。





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