19 / 32
19 努力
しおりを挟む頑張らないと。手が痛くたって、頭が痛くたって、目がいたくて肩が凝っても・・・頑張ることしか私にはできない。今の私はどう思われているのだろう?
休むことはできない。少し休んでいる間にその姿を見られて、やっぱりあいつは怠けているって思われたら、すべてが無駄になってしまう。いつみられてもいいように、ずっと勉強していないと。
痛い。疲れた。眠い。・・・何やってるんだろう。
本をめくる手が止まる。この本は何だっけ?あぁ、そうだ歴史が書いてある。このゲームの世界の・・・いや、違う。ペンプトン王国の歴史が書いてある本だ。
本の文字はこの国の文字で書かれていて・・・あれ、これなんて読むんだっけ?おかしいな、この国の文字は読み書き完璧なはずなのに、あぁだめだ。文字を一から勉強しないと。
勉強しないと。勉強している姿勢を見せないと。エン様の婚約者にふさわしいって、誰もが認める人にならないと。
もう、死にたくない。
視界がゆがんで、唐突に意識を失った。
目覚めたのは私のベッドの上で、私の手を握って眠るエクスがいて驚いた。エクスはまだ子供なんだと幼さが残る顔を見て理解した。
すぐに目覚めたエクスが、ベッドの上にあがって私を抱きしめた。力加減を知らない子供のハグは息苦しかったけど、嬉しかった。
勉強をし過ぎて倒れたことで、勉強を禁止されてしまった。今までがやりすぎだったのだからと、当分は遊ぶように言われた。遊ぶのも子供の仕事だと言われて。
怖くて仕方がなくて、遊べと言われても呑気に遊んでなんていられなかった。
そんな私を心配してくれたのは、エクスだった。
「ミデン、大丈夫だよ。ミデンが私の妹である限り、どんなことからだってミデンを救ってあげるから、もう怖いものはないよ。」
怖いのは、攻略対象者であるエクスも同じなのだが、味方でいるならこれほど心強い人はいない。だってエクスは・・・
懐かしい、何度も聞いたオープニングテーマが頭の中で流れた。
エン様、デュオ、テッセラ・・・エクス。最後に現れたヒロインと結ばれるのは誰か?私は、誰と結ばれたかったのか・・・・・・・
金の髪に青い瞳を持つ、勝気な表情をしたエン様。私は、エン様が好きだ。理想の王子様のような美貌も、自信に満ち溢れる言動も。今の幼い姿はかわいくて、話し方も丁寧で本当に可愛らしくて好きだ。
私の婚約者のエン様・・・
エン様以外は、ありえない。
1週目の時の夢を見て目を覚ました私がいるのは、木陰の下。どうしてこんなところにいるのかと一瞬わからなかったが、すぐそばから視線を感じてそちらを向けばすぐに思い出した。
そこにあったのは、太陽の光を反射してきらきらと輝く金髪に青い瞳のエン様。夢の中のエン様と違って、成長し精悍な顔つきになったはずのエン様だが、その顔色は優れず濃いクマが目の下に居座っている。憔悴しているのだろう。こんな姿は、1週目で見たことがない。
原因は、デュオのこと?それともテッセラ?両方だろうか?」
「目が・・・覚めたか。エクスは、別の場所にいる。今日は久しぶりに2人でいたかったからな。」
久しぶりに2人というが、2週間に一回はエン様と城でお茶をしている。確かにソーニャたちもいるが、一緒にお茶を飲んでいるわけではないので、2人でお茶をしているといってもいいくらいなのだが、エン様はそうではなかったようだ。
でも、本当に2人きりになったことなんて、今までなかったような気がする。久しぶりも何も初めてのことだ。
目に見える範囲には、護衛も侍女もいない。エン様が言ったように兄の姿もないし、いつも姿を消して護衛をしているテッセラもいないだろう。別の影がいるかもしれないが、この際置いておく。
「ここまで2人きりというのは、初めてですわ。護衛もいないのは少し不用心ではありませんか?」
「デュオほどでもないが、僕も光魔法の使い手だ。いざとなれば自分の身はもちろん、ミデンのことだって傷一つ付けやしない・・・安心してくれ。」
安心なんてできるわけがない。エン様に何ができるというのだと、少しばかりいらだってしまう。
それをうまく呑み込んで、私は体を起こした。体の下には、エン様の上着が敷いてあって、しわがついていた。
「ミデン、覚えているか?ここで・・・小さいころ、ここで4人で遊んだよな。丸太の上に並んで僕たちは座って、デュオたちは花を見ていた。楽しかったな・・・」
「そうですね。」
そう、ここはまだデュオが誘拐される前に訪れた花畑。デュオとテッセラが花を観賞しながら笑い合っているのを見て、婚約すればいいのにと思った花畑。
木陰にいるため日の光は遮られているが、花畑には暖かな光が降り注いでいて、時折吹く風が花の香りをした暖かい空気を運んでくる。
「楽しかったな・・・」
「そうですね。」
先ほども言っていなかったか?どんな顔をしているのかと思ってエン様の顔を見上げると、そこには思い出を楽しんでいる顔はなく、ただただ苦しそうな、後悔をにじませた顔があった。
この人は、誰?
私の婚約者のエン様だということは理解できるのだが、なぜか目の前にいる人物に疑問を挟んでしまう。この人は誰なのかと。
エン様がこんな顔をしたところは見たことがない。
「どうして、こんなことになってしまったのか・・・」
ついに頭を抱えて、エン様の表情が見えなくなる。そこには、私の知らないエン様がいた。自信に満ち溢れた姿はなく、可愛らしくならったことを実践する微笑ましい姿もない。
誰?
いや、わかっている。そうだわかっているんだ。私がよく知っているエン様は、もういない。目の前にいるのは、私がそれなりに知っているエン様だ。
1週目は、いつか一生を誓い合う相手なのだと、そういう目でエン様を見ていた。だから、エン様の好きなところを聞かれれば答えることができる。でも、目の前にいるのはそのエン様じゃない。
いつか殺す。私のために死んでもらう、いつか目の前からいなくなる相手。それが、今私の目の前にいるエン様だった。
「ミデン・・・残ったのは、ミデンだけだ・・・」
「エン様・・・何を言っているのですか?」
「もう、僕にはミデンしか残っていない。やっと仲良くなった弟も、ずっと目を覚まさない。ずっとそばにいてくれた護衛も・・・・・・・」
その先は言わなかったが、察することができる。少なくても、無事ではないことだけはわかった。
「ずっと、そばにいてくれるか。」
「・・・」
「ミデン、ミデンだけはずっとそばにいてくれ。僕の前からいなくならないでくれ、ミデン!」
「!?」
知っているはずのエン様とはかけ離れた言動に混乱する。そして、追い打ちをかけるように、私はエン様に押し倒された。これは、誰?何?
「ミデン、僕のミデン。離れないで・・・」
「エン様!おやめください!」
端正な顔が近づいてくる。まさかという思いと、ここまで裏切られたのならという思いが混じる。唇に触れるものを感じて頭が真っ白になった。
嘘。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。
hoo
恋愛
ほぅ……(溜息)
前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。
ですのに、どういうことでございましょう。
現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。
皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。
ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。
ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。
そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。
さあ始めますわよ。
婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒロインサイドストーリー始めました
『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』
↑ 統合しました
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる