死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

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17 テッセラ脱落

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 ゆったりとした曲が流れる、きらびやかな会場。そんなあちらこちらから聞こえる談笑を遠くに感じながら、私は一人きりで会場の隅にいた。

 結局、友達はいまだにいない。クラスの中ではもうグループができてしまって、今更入る勇気も出ず、私は一人で交友会を過ごすことになった。



 くれぐれも、お転婆を学園で発揮しないようにと言われて、なかなか話しかけることもできず、クラスの印象では大人しい子として扱われている。言いつけを守るのはいいけど、このままだと本当に一人ぼっちの学園生活を送ることになる。そんなのは嫌だ!



 でも、礼儀作法に自信はないし、令嬢の会話など入っていけそうもない。木登りの話もしてはいけないし、乗馬や狩りの話もダメだと言われた。本の話ならできるが、私が好きなのは騎士物語で、一般的な令嬢が好む恋物語や詩集などには全く興味がない。

 男性との会話には困らないだろうが・・・



 婚約者がいる男性がいるので、不用意に近づけない。婚約者がいれば、嫉妬される可能性があって、それで面倒ごとになるのは目に見えている。

 逆に、婚約者がいない男性だと、変な噂が立ちそうだ・・・うん、無理。



 同性で、せめて騎士物語が好きな人はいないだろうか?乗馬や狩りが趣味というのは難しいかもしれないが、騎士物語が好きな人はいるかもしれない。



 私は、聞き耳を立てて騎士物語について女生徒を探すことにした。しかし、みんな詩や花、噂話などに花を咲かせて、騎士は物語ではなく現実の騎士の話くらいしかしていない。こうなったら、現実の騎士で妥協するかと私は顔を上げて固まった。



「エン様!?」

「覚えていてくれたのか、エナトン嬢。」

 目の前にいたのはこの国の王子、エン・F・ペンプトン。先日この人のハンカチを拾ったことから、知り合いになったのだが・・・まさか、話しかけられるとは思っていなかった。

 だって、相手は王子。同じ学年だとしても、別世界の人間だからだ。



「覚えているに決まっているじゃないですか!まさか、ハンカチの持ち主がこの国の王子様だなんて思いませんでしたし、お名前をお聞きしたときは腰が抜けるかと思いました。」

「ふっ、抜けなくてよかったな。」

「え・・・はい。」

 ニッと笑ったエン様の表情を見て、想像とは違ったので驚いた。王子だからと勝手な想像をして、もっと優しく微笑むかと思っていたのだが・・・からかうように笑う顔を見れば、親しみやすそうな気がして、私の緊張も解けた。

 そう、緊張していたのだ。それは、お転婆がばれるかもとか言ったものではなく、普通に別世界に住む王族というものが目の前にいるということに対しての緊張だ。それが無くなった。



「これも何かの縁だ、僕と踊ってくれないか?」

「えっ?わ、私がエン様とですか!?」

「なんだ、嫌なのか?」

「そんなことないです!でも、その・・・いいのですか?」

「悪いなら、誘わない。」

 エン様がこちらに手を差し出してきた。私は再び緊張がぶり返してきたが、勇気を振り絞ってその手を握る。



「ふ・・・」

「?」

「握手じゃないのだから、握る必要はない。さ、行くか。」

「す、すみません!」

 手を緩めれば、今度は逆に手を掴まれて、会場の中央へと引っ張られる。最後に勢い良く引っ張られて、私はエン様の胸に飛び込むような形になった。



「あ、す、すみません・・・」

「謝らなくていい、わざとだ。力を抜いて、僕に任せて・・・今までで一番輝くエナトン嬢をみんなに見せてあげよう。」

「か、輝く!?確かに光の魔法は使いますが、まさか踊りながら使うんですか?」

「輝くってのは比喩だよっ・・・本当、エナトン嬢は面白いな。」

 ひとしきり笑った後、流れ始めた曲に合わせて私たちは踊り始めた。ダンスなんて特に好きではなかったけど、エン様と踊るのは楽しかった。







 なんだか居心地が悪いなぁ。

 悪いことの後にはいいことがあるというが、その逆もある。今回はそれだろう。楽しいエン様とのダンスが終わると、明らかに嫉妬の視線がいくつも浴びせられて、ひそひそと何事か言われているのも聞こえる。歓迎されていない雰囲気に、壁の花になるのもためらわれた。



 ここで壁に戻れば、惨めな気持ちになる。どうしようかと悩んだ私は、「バルコニーに出る」ことにした。



「気持ちいい風・・・嫌なことは忘れよう。それよりも、楽しかったダンスのことを思い出そう!今日の夢で見られるといいなー」

 柵に手を置いて、目を瞑ってダンスのことを思い出す。何度も思い出せば印象に残って、今日の夢でもう一度踊れるかもしれない。



「・・・ぁ・・・ぉ」

「ん?」

 誰かいるのだろうか?下の方から内緒話をするような、声を潜めた話声が聞こえた。何となく気になって耳をすませば、とんでもない言葉を耳が拾った。



「王子」「誘拐」その2つの単語を聞き取って、最初は疑問符を浮かべたがすぐに背中に冷たい汗が流れた。

 エン様を誰かが誘拐しようとしている!?



 大変!エン様に伝えないと!あ、でも勘違いかもしれない。聞き間違いかもしれない。声を潜めた話声だったので、はっきりと内容を聞き取ったわけではないし・・・早とちりだったら大迷惑だ。でも、本当だったら・・・?



 エン様の周囲には必ず誰かがいるだろうし、エン様一人にこの内容を伝えるのは不可能だ。しかし、複数人に聞かせた場合大事になる。どうしよう?



「・・・あ。テッセラさん!」

 エン様にハンカチを返した帰りに出会った、エン様の護衛と名乗った1学年上の女生徒、テッセラ・スキアーのことを思い出した。

 彼女にならこっそり話せるかもしれない!それに、エン様の護衛なら彼女に伝えたほうがいい内容だ。



 私は「テッセラに伝える」ことにした。



 会場に戻り、テッセラさんを探す。すると、王子の近くの柱の陰に彼女の姿を見つけた。私は会場をぐるりと回ってテッセラさんがいる柱まで近づいて声をかける。



「テッセラさん。」

「・・・あぁ、トゥリアですか。先ほどはエン様のお相手をしていただき、ありがとうございました。良い気分転換になったようです。」

「気分転換?・・・あ、それよりも少し話が・・・聞き間違いかもしれないのですが。」

 周囲に人がいないことを確認してから、私はテッセラさんにだけ聞こえる声でバルコニーで聞いたことを話した。



「・・・理解しました。では、我が少し確かめてきましょう。申し訳ないですが、エン様に「スキアーが少し席を外す」とお伝え願いませんか?」

「わかりました。気を付けてくださいね、テッセラさん。」

「お気遣いありがとうございます。では・・・」

 テッセラさんの視線をたどってエン様を見る。テッセラさんの方を見て頷こうとしたが、すでにテッセラさんは消えていた。







 それが、テッセラさんを見た最後だった・・・







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