死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
16 / 32

16 交友会

しおりを挟む

 独特の匂いを感じて目を開ければ、思った通り私は保健室のベッドの上に寝ていた。しかし、いつもと違うのは兄の顔が間近にないことだ。

 不思議に思って周囲を見渡すと、そこには予想もつかない人物が座っていた。



「テッセラ?」

「はい、ミデン様。起きますか?」

「うん。」

 私は返事をして起き上がる。それをテッセラが背中に手を回して補助してくれた。別に病人ではないので、その必要はなかったがお礼を言う。



「お兄様は?」

「学園長に呼び出されました。なので、我がミデン様を教室まで送ります。」

「え、そこまでしなくてもいいよ。お兄様にも教室まで送ってもらうのは断っているし。」

「エクス様はエクス様・・・我は教室まで送ります。」

「・・・そんなに言うなら、よろしく。」

 兄の場合は恥ずかしかったが、テッセラなら送ってもらったとしてもそう騒がれることはないだろうと思い、了承する。



 体には異常がなく、いつもの魔法を使って眠っていただけの保健室を後にして、テッセラと2人静かな廊下を歩く。このあたりは人通りが少なく、めったに人とすれ違わないのだ。



「最近、こうして話すことも少なくなりましたね。」

「そうね。」

「本来ならこれが普通なのでしょうが、我は少しだけ寂しく感じます・・・」

 心情を吐露するなど珍しく、まじまじとテッセラを見てしまった。そんな私の視線を受けて、テッセラは苦笑いを浮かべる。



「どうやら我は、少々・・・いえ、かなりミデン様に甘えていたようです。影失格ですね。」

「テッセラに甘えられた覚えはないけど、何度もテッセラには助けられたわ。ありがとう。テッセラはいつも一人の時、隣に来てくれたね。」

「・・・これからはそうもいきません。この学園を出れば、我は影で、ミデン様は護衛対象です。姿を見せるのは、あと何回でしょうね。」

「寂しくなるわ。」

 あと数回。それが私とテッセラが顔を合わせる回数だ。



「わかっていたことです。我は、小さな頃の思い出を胸に、影ながらミデン様をお守りいたします。ですがミデン様・・・エン様はあなたの目の前にあり続けるお人です。」

「そうね。」

「ですから、どうか・・・我と同じ寂しい思いをさせないように、お願いいたします。」

「善処するわ。」

 寂しい思いを、私はテッセラにさせていたのだろう。おそらく、エン様にも。でもそれは仕方がないことだ。だって、彼らはあと1年も生きないのだし、私の重りにしかならない。なるべく接触を断つのは普通のことだ。







 アリスモスの恋では、大イベント呼ばれるものが3つある。最初に行われる「交友会」は、新しい環境でできた友達とパーティーを楽しんだり、新たな出会いを求めると言った感じの会だ。現実的なことを言えば、このパーティーを通して礼儀作法の実践を行ってもらいたいという目的もあるのだろう。

 一部にはほとんどパーティーに出ていない者もいる。

 私も、一週目と比べればパーティーに参加することが少なかった。馬車のトラウマのせいだ。



 交友会では、自分のお転婆を気にして友達を作れなかったトゥリアが、エン様にハンカチを拾ったお礼として踊ってもらうイベントがある。エン様は気を利かせたのだろうが、そこである目立ちしてしまったトゥリアは、完全にミデンの標的となる。



 ここで、選択肢が現れる。

 周囲の居心地の悪い空気を感じ取ったトゥリアは、「バルコニーに出る」か「壁の花になる」かを選ぶ。そこで、「壁の花になる」を選んだ場合、ミデンに悪態をつかれ、そこをデュオが救うイベントが起きるのだが、私はそんなことをしている暇はないし、デュオはいないのでそんなイベントは起こりようがない。

 しかし、「バルコニーに出る」イベントは、私とは全く関係ないので起こることは1週目でも確認している。



 なので、私はアイモアを連れて「バルコニーに出る」。



「付き合わせてしまってごめんなさいね、アイモア。」

「いいえミデン様。私もちょうど外の空気を吸いたいと思っていましたから。」

 バルコニーに出ると、私はそれ以上声をかけずに外の景色を眺めている風に装う。アイモアも同じように黙って、外を眺めている。



 思惑通り。アイモアを連れてきたのは、彼女が余計なことを話さないからだ。黙っていなければ、このイベントに気づくことはできない。



 静かにしているおかげで、ぼそぼそと話声が聞こえてきた。



「ミデン様、何か声が聞こえませんか?」

「そうね。それも物騒な単語が聞こえるわ。」

 2人してその話声に耳を澄ませる。そして、その内容を聞き取った私たちは、目を見合わせた。



「どうしましょう、ペンプトン様を誘拐だなんて・・・冗談ですよね?」

「冗談だとしても、聞いたからには報告しないと・・・私はエン様の影に伝えて来るので、アイモアはエアンヌたちとエン様に伝えてください。」

「わかりました。」

 私たちは会場内に戻って、それぞれ目的の人物の方へと向かう。エン様の影、テッセラはすぐに見つかった。



「テッセラ、少し話があるの。」

「これはミデン様・・・どうやら、ただお話しに来たというご様子ではないですね。どうぞこちらへ。」

 少しだけ悲しそうな顔をして、テッセラは私を人気のない柱の陰に連れて行った。

 そこで私はエン様誘拐を計画している話を聞いたと正直に話す。



 悲しそうな表情は消えて、テッセラは無表情になった。



「理解しました。では、ミデン様はそのままパーティー会場に戻ってください。くれぐれも、一人になることがないように。」

「わかったわ・・・行くの?」

「はい。」

「そう・・・」

「大丈夫ですよ。いつもやっていることです。」

 無表情を解いて、私を安心させるように笑うテッセラを見て、私の胸が少しだけ傷んだ。でも、こんな痛みは嘘だろう。



 私は、まだいい人のふりがしたいらしい。



「・・・ミデン様、一つだけ約束してくださいますか?」

「約束って、何を?」

「最後の思い出に・・・薔薇を一緒に見ていただけませんか?」

「・・・そんな約束できないわ。最後なんて・・・」

 ここで言葉を止める。すると、テッセラは勝手に私の言葉を解釈したのか、嬉しそうに笑って私のことを優しいと褒めた。



 あぁ、誤解させてしまった。

 薔薇を一緒に見るのが最後になる約束なんてできないと、私が言いたいのだと思ったのだろう。でもそれは違う。



 もう、ここで最後なのだから、約束はできないと言ったのだ。



 そんなことも知らず、テッセラはいつの間にか姿を消していた。最後に見たのは、嬉しくて仕方がないという笑顔だった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

処理中です...