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13 ゲームスタート
しおりを挟む月日は流れ、兄はいつの間にか戻って来ていて、ペンデと会うこともなくなった。それから2年、20歳になった兄は学園に通い、ペンデの話をよく兄の口から聞くようになって、イレギュラーは起きたが・・・というより私が起こしたが、着実にゲームの舞台が整いつつあって、ふとデュオのことを思い出した。
誘拐され、意識不明の重体で見つかったデュオ。私がゲームの知識を持っていなければ、もしくは1週目のようにしていればこのようなことにはならなかったデュオは、これからどうなっていくのか。
あと1年、私達が学園に入学する頃には、意識を取り戻して学園に通うのか?意識不明のまま何年も生きているのだって不思議で、その原因はゲームだと思っている。いいかえれば、この世界の理がそうさせているのだと、私は思っている。
「だとしたら、私は・・・」
屋敷の薔薇を愛でながら、私はマイナス思考を追い出す様に息を吐きだして、顔をあげた。
まだ、デュオが復帰する・・・意識を取り戻して学園に通い始めると決まったわけではない。それに、もしそうなったとしても私がやることは決まっているのだ。
そっと薔薇に触れて、力を入れて薔薇を握り締めた。
あぁ、なんてひどいことを。庭師が丹精込めて育てた、大きくてきれいな薔薇。長い時間をかけて育てた薔薇を、私は一瞬にして台無しにした。
ひどいことを・・・
ヒロインと攻略対象者たちに用意された、愛を育む世界。それを壊すなんて、酷いことを。なんて、酷いことを私はするのだろう。
でも、それは世界も同じ事。
「いい香り。」
手に付いた花弁が地面に舞い落ちて、滴り落ちる血のように地面に色を添える。私はそのまま手を目の前に持ってきて、匂いを嗅いだ。
少し青臭いような気もする。一体、私は何をやっているのだろう?
なんだか言い表せないような恥ずかしさが込み上げて、私は部屋に戻った。そんな姿を兄が見ているとも知らずに。
真新しい制服に身を包んだ私は、姿見の前でくるりと回った。その様子を見たソーニャがクスリと笑って、少しだけ乱れた髪を直してくれる。
「ミデン様、とってもお似合いですよ。まるで、花の妖精が舞い降りたようです。」
「褒め過ぎだわ。でも、ありがとう。お兄様は?」
「準備ができたらお呼びするように言われています。お呼びしますね。」
「お願い。」
ソーニャが去って、私は鏡に映る自分の姿をぼーと眺めた。
今日から学園に通うので制服を着ている私は、少し幼さが残るが立派な令嬢に育ったと分かる。1週目の死んだときと同じようでいて、違う・・・そんな私がそこに立っていた。
「今日から始まる、ゲームの世界が。」
真面目な攻略対象者たちは、私よりも早く登校しているはずだ。そこにデュオはいないかもしれないけど、それはそれでいい・・・手間が省ける。
つまり、私が学園の敷地内に足を踏み入れた時、ゲームが始まる。
アリスモスの恋。ヒロインと攻略対象者たちの恋と友情の甘酸っぱい物語。乙女ゲームと呼ばれるゲームは、始まらない。
今から始まるのは、ひとり、またひとりと親しいものが殺されていき、次は自分かと不安を胸に生きていくような、そんな・・・
「デスゲーム」
デスエンドは私が決める。なぜなら私は、悪役令嬢、ミデン・プロートンなのだから。
甘酸っぱさはない。ただ、恐怖と悲しみと、疑問だけが残るであろうデスゲームがこれから始まる。
死ぬのは、死ぬ運命である私ではなく、私の死を物語のスパイスとしてハッピーエンドを迎えるはずだった、ヒロインと攻略対象者たちだ。
誰も彼もが誠実で、正しくて、死ぬほどのことなんてしていないって、誰もが思う善人。私だって、1週目では彼らを大切だと思っていた。
でも、今は憎しみしかない。そう、憎しみしかないのだ。
私が死ぬのは、みんなのせい。
世界がみんなを幸せにしようとするから、悪役は死ぬしかない。世界に殺される。
「私のために、殺されて。」
フッと笑みを浮かべた私は、なるほど悪役令嬢だ。
美しいのに醜いという、対極の感想を抱かせるような、そんな笑みを浮かべていた。
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