死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
12 / 32

12 夜の王

しおりを挟む


 エクス・スコティンヤ・プロートンが最初に誘拐されたのは、まだスコティンヤを名乗る前、魔法の才能を知られていない1才のときだ。3年間行方知らずだったが、ある日プロートン家の執事が、屋敷のサンルームで健やかに眠るエクスを発見。身体的特徴からエクス本人と判断された。

 成長したエクスだったが、言葉を話すことは全くできなかった。



 それから、5歳の魔力測定で、闇の魔法の素質があることが確認され、スコティンヤを名乗ることになる。その頃には、話すことを当然のようにできるようになって、分厚い本も易々と読むことができ、神童と呼ばれるようになる。



 一時はどうなることかと思ったが、未来はこれで安泰のように思われたその時、再びエクスは誘拐された。2度目の誘拐も、1度目と同じように屋敷いたはずのエクスが忽然と消えた・・・といった全く手掛かりのないものだった。



 プロートン家では、万が一のことを考えてエクスの兄弟を望んでいたが、生まれたのは男児ではなく女児。ゲーム世界の悪役令嬢、ミデン・プロートンが誕生。

 エクスとは違って、こちらは誘拐などの危険な目には合わず、すくすくと育つ。



 誘拐されて2年たったエクスは、1度目と同じように唐突に屋敷内で、プロートン家の執事が見つめた。今回は、健やかに眠るミデンを覗き込んでいるところを発見されたエクス。

 報告を受けたプロートン家の当主は、城に報告しエクスの学園への入学を遅らせて様子を見ることにした。



 もしもこれで終わるのなら、そのまま学園へと送り、卒業後次期当主として育てるつもりだった。



 そして、学園の入学まであと1年というところで、再びエクスは誘拐される。



 ここで、行方不明という言葉を使わないのは訳があった。なぜなら、これは誘拐だから。犯人はすでに分かっていて、理由も知っている者は知っていたのだ。



「夜の王は知っているかな?」

「夜の王?・・・確か、悪いことをすると、みんなが寝静まった夜に、その悪い子をした子供を攫って行くという、迷信の夜の王?」

「まぁ、さらわれた理由は、悪いことをしたからではないけど・・・子供を攫うところは正しいよ。お兄さんを誘拐していたのは、その夜の王だよ。」

「・・・私のこと、馬鹿にしてますか?」

「全く。稀にある話だから知っている人は、知っている話だよ。夜の王は気に入った子供を見つけると、自分の世界に連れていこうとする。でも、こちらの世界とあちらの世界は理が違うから、普通に連れて行くと子供が命を落としてしまう。だから、ゆっくり時間をかけてあちらまで連れて行って、すぐに引き返して子供を返すんだ。」

「それに何の意味があるの?」

「ゆっくりいくのは、世界の変化に体が対応できるようにするためで、最初は2年かけて行く。慣れてない体はあちらの世界には不向きだから、1年かけて戻って、こちらで回復させるんだ。」

 それが、最初の誘拐の話ということだろう。2年と1年で3年・・・兄がいなかった期間と一緒だ。



「回復したらまた連れ出して、1年かけて行き、半年とどまって、半年かけて戻ってくる。」

 2回目の誘拐。1年と半年が2つで、2年・・・だとしたら、今回の誘拐は・・・1年で戻ってくる。計算が合うというかなんというか・・・ぱっと思ったのは、カウントダウンのようだということ。3年、2年、1年・・・0。



 0になったら・・・兄が帰ってきて、また誘拐されたらどうなるのだろうか?夜の王は兄をあちらの世界に連れて行くことが目的らしいので、そう考えれば0になったら、兄はもう帰ってこないような気がした。

 スッと血の気が引いた。



 おかしな話だ。兄は攻略対象・・・私のために死んでもらう人間。殺すつもりだったというのに、いざいなくなると思えばぞっとしてしまうのだ。



 そっか・・・1週目の時、私だけが命を落としたと思ったが・・・兄も、命はあってもすべてを捨てることになっていたのだ。

 そう考えると兄が近い存在のように思えて、私の心は温かくなる。でも、それもペンデの言葉によって、冷え切る。



 ペンデは、私の予想した通り兄が1年で帰ってくると話して、帰ってきたら夜の王対策で、20歳になるまで学園には通わないことになると話していた。それは、確かにその通りだ。兄が学園に通い始めるのは20歳になってからだった。そうなると2年生だと思うが、兄は飛び級をして3年生になるから、ご都合主義だと思っていたが・・・



「20歳に近づくと、子供の方も抵抗力というか、簡単に夜の王にはさらわれなくなるんだ。だから、夜の王は自分の力が最も通じる学園で子供を待つようになる。だから、夜の王にさらわれないように、20歳の・・・成人になるまでお兄さんは学園に行けないんだよ。」

「つまり・・・」

 学園は、夜の王のテリトリーで、他の場所なら攫われないように抵抗できる子供も、そこでは夜の王にさらわれてしまう。だから、夜の王の攫う対象の子供でなくなるまで、学園には通えないということ。

 つまりは、兄にはもう何の危険もないということだ。さすが攻略対象・・・悪役令嬢とは違って、世界は優しくできている。



 ヒロインとのハッピーエンドが用意されているのだ。回避不可のバッドエンドルートなど存在してはいけないのだろう。



「お兄さんが帰ってきたら、何としてでも学園に連れて行っては駄目だよ。まぁ、周りがそんなことさせないとは思うけど、ね。きっと、次にさらわれたらもう戻ってこれないから。」

「戻ってこれない・・・あっちの世界は、どんなところなのかしら?」

「さぁ?でも、あっちの世界には、月姫はいないから、お兄さんは行きたくないんじゃないかな?」

 それはそうだろう。私も、両親も、友人も・・・こちらの世界にいるのだから、あちらの世界にはいない。

 もしもそこが楽園だとしても、行きたいとは思わないだろう。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...