死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

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 兄がいなくなってから半年がたった。その間にも進んで行く妃教育を受けて、義務のようにエン様と会話を交わして、日が傾いた。

 少し待てば父と帰ることができるので、そのまま待つことにした。短時間に何度も行き来させるのは御者も馬も可哀そうだから・・・お茶でもして待とう。

 そんな提案をしてきたのはペンデだった。何が目的かと率直に尋ねてみたら、私と話したいと言って、ぶつぶつと不満を漏らしたのだ。



 城に行くたびに会うのに、私と話す時間がほぼない。ペンデが来れば、すぐに私は魔法で眠ってしまうので、寝顔を見ていることしかできないと。



「まぁ、何度見ても、何時間見ても、月姫の愛らしい顔を見ることは飽きないんだけど、やっぱりその月の目を見ながら話したいってね。」

「月の目なら、ペンデ様にもついていますから、どうぞ何時間でも鏡をご覧ください。あと、2度と私の寝顔を見ないでください。私はエン様の婚約者ですよ?」

 一緒の馬車にいるのだから、ソーニャも黙って見ていないで止めて欲しい。そう口にしたら、ソーニャも一緒になって見ているので無理だと言ってきた。



「ソーニャ、信じていたのに。」

「申し訳ございません、ミデン様。ですが、彼は私の同志でして・・・彼の気持ちもわかるので、止めることができませんでした。私だって、ミデン様の寝顔を見るのを禁止されれば、泣きますから。」

「おおげさね。」

「いいえ、いたって普通のことです。そうですよね、同志。」

「あぁ。あなたの言っていることは理だ、同志よ。」

 困ったことに、この半年間でソーニャは、ペンデに篭絡されてしまった。いや、変な宗教にでも入ってしまったかのようで・・・自分で言うのも恥ずかしいが、その宗教の名はミデン教だ。とにかく2人して私を誉めまくって、なんだかいたたまれない気持ちになる。



 私は、そんな立派な人間じゃないのに。



「まさか、月姫の侍女がここまで話の分かる人だとは思っていなかった。これからもよい関係を保っていきたい。」

「光栄です。ともに、ミデン様を愛で、称え、守り、支えましょう。同志であれば、私もそれを許せます。」

「こちらこそ光栄だね。ということで、これからもよろしくね。」

 にっこりと笑った後に見えた月の瞳は、冗談を言っているものの目ではなかった。本気で私を愛で、称え、守り、支えるつもりか?だが、前半2つは可能だとしても、後半2つは無理だろう。

 だって、1週目の時、ペンデもあの場にいながら、私の婚約破棄、追放、事故を止められなかったのだから。



「それほど仲がいいなら、2人も結婚したら?」

「ご冗談を。」

「僕の愛は、ただ一人のためにある。」

「やはり、愛のある結婚が望ましいですね。ですが同志、その愛を実らせることだけは、私はあなたの敵です。」

「それは仕方がないことだね。なら、この一点のみ、僕たちはライバルということになる。」

「異論はありません。」

 いや、あるだろう。私は鈍感系主人公ではないので、はっきりと話の意味を理解している。つまり、ペンデもソーニャも私と結婚しようとしているのだ。これは、今の言葉だけでなく、ここ半年告げられた言葉でわかるものだ。

 ペンデは、率直に「僕と添い遂げよう」と言ってきたし、ソーニャは「男では味わえないこと、味わってみませんか?」と私をベッドに押し倒してきたこともある。もちろん丁重にお断りして、ソーニャも「残念です」と言って終わった。



 1週目で無かったことが起きていた。それはきっと、私が原因なのだろう。馬車のトラウマ・・・これがなければ、ペンデとこのような出会いをすることはなかったし、ペンデに触発されたソーニャなど見ることもなかった。



 2人は、攻略対象者ではない。だから、殺さなくてもいい。そのせいか、2人に対して心を開いている自分を自覚していた。もとからソーニャには開いていたが、そこにペンデが加わったのだ。



 ゲームには登場するけど、ペンデはモブキャラだ。きっと私の死には何の関係もない。関係があるのは、攻略対象者とヒロイン。だって、この世界はヒロインたちのためにあるのだから。



 そして、ヒロインのために私は死ぬ。・・・そんなシナリオ、ヒロインと攻略対象者に送りつけてやればいい。

 あと3年ちょっと。学園で繰り広げられるのは、ヒロインと攻略対象者たちの甘く、時に刺激的な恋物語ではない。一人、また一人と死んでいくサスペンス。シナリオはもうすでに決まっている。

 誰も残らない。残るのは、悪役令嬢とモブキャラだけ。



「そういえば、お兄さんが誘拐されて半年だね。」

「ペンデ様は、時々無神経なことを言いますね。確かにそうですが、それが何か?」

 唐突に言い出した言葉。誘拐された兄を心底心配していたなら、私は怒りだしたかもしれないし、泣き出したかもしれない。でも、そうはならない。

 心配していないからではなく、無事に戻ってくることが分かっているからだ。



「・・・次に、お兄さんが3回誘拐されたことがあるのは知っている?」

「3回・・・?いったい何を、兄が誘拐されたのは今回のを入れて2回ですよ?」

「あぁ、やっぱり知らされていなかったんだね。ねぇ、月姫、お兄さんが誘拐されるのはなぜだと思う?」

「それは・・・身代金目的?」

 誘拐と聞けば思いつくのはお金目的だ。他には、貴族の子供ということを考えれば、その権力を使って何かをさせようと・・・あぁ、私の薄っぺらい頭ではこれが限度だ。

 ゲーム知識でも、兄が誘拐される理由などの言及はなかった。私も、年上を同じ学生として通わせるための口実としか思っていなかった。



 だけど、ペンデがこのような言い方をするのだから、何か理由があるのだろう。それも、特別な。





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