死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
8 / 32

8 隣の穏やかな世界

しおりを挟む



 1周目がなかったとしても、すでに慣れただろうバラ園。エン様が去って、私は兄が来るのを待っていた。そうした空き時間に相手をしてくれるのは、テッセラかソーニャ、たまにデュオだ。今日はテッセラが私の相手をしてくれた。



 いつものように差し出された手を取って、テッセラに導かれて薔薇をめでる。護衛やソーニャが遠くで見守る中、彼らに背を向けたテッセラは表情を引き締めた。



「何を悩んでいるのですか?」

「え?」

「ずっと・・・ミデン様は悩んでおられるご様子。殿下たちも心配しておられますよ。」

「・・・」

「殿下たち、殿方には話せないことも多いでしょう・・・よろしければ、我が相談に乗ります。いえ、話を聞きましょう。話すだけでだいぶ楽になることかと思いますよ?」

「・・・ありがとう。でも、どう話せばいいかわからないの。」

 婚約破棄されて、追放されて、事故死にならない方法など聞けるわけもないし、どう言ったらいいのかわからなかった。だってどれも、今の私にはありえないこと、心配のし過ぎだと笑われるのがオチの話でしかない。



 殿下の関係は良好、プロートン家に魔の手が伸びている気配はない。何もかも、予兆がなくただの私の妄想と片付けられてしまうことばかり。

 人生3回目、2回はミデンやってますなんて、正気を疑われるので絶対言えない。



「どのように言っていただいてもいいですよ。そうですね、ただ何か不満や不安があれば、教えていただけませんか?」

 不安。悪役令嬢に仕立て上げられないか?皆に嫌われないか?婚約破棄されないか?追放されないか?・・・事故死しないか。



 死にたくない。そうだ、私は死にたくないんだ。



 悪役令嬢になることも、婚約破棄も、追放も・・・なぜ怖いのかといわれれば、それがすべて死に直結するからに他ならない。婚約破棄されて終わりなら、悲しいだろう。追放されて終わりなら、今後の生活を心配する。事故死したら・・・終わりだ。



「死にたくない。」

「え・・・それは、どういうことですかミデン様?」

「・・・」

「聞き間違いでなければ、死にたくないと、そう我には聞こえたのですが。」

「みんなそうでしょう?」

 生き物なら、死にたくないと思うのは当然のことだ。なにもおかしいことはないと、私は苦笑した。



「それだけ。人に相談しても、どうしようもないことでしょ?」

「・・・それは違います、ミデン様。」

「何が違うというの?まさか、不死の秘薬でも探すなんて言い出さないわよね?」

「いいえ・・・ただ、我はあなたを守ると言います。」

 すっと跪いたテッセラ。見上げてくる柔らかい茶の瞳は真剣だが、口元は緩んで私を安心させようとしている様子だ。



「もう一度言いましょう。我は、ミデン様を守ります。」

「う・・・」

 嘘だ。



「必ず、あなたを守りますから、ご安心ください。」

 何かがのどに絡みついて、私は必死にそれをつばと一緒に飲み込む。あぁ、苦しい。もう一度つばを飲み込んで、口角をあげた。



「・・・嬉しいわ、テッセラ。ありがとう。」

 きっと、テッセラは気づいている。私が安心していないことに。

 しゅんとしたポニーテールを見て、私も悲しくなった。テッセラを信じていないわけじゃないけど・・・?

 いや、私はテッセラを信じていない。だって、テッセラは守ってくれようとしてくれたけど・・・結局私は死んだから。







 1週間後、短縮された王妃教育を受けた私は、デュオに呼び出されて書庫に向かっていた。王妃教育が私の負担と思われたらしく、時間が3分の2に短縮された。1週目なら、勉強しないと嫌われると慌てていたかもしれないが、今はそういう気持ちがわいてこなかった。

 私を嫌うはずがないと、傲慢な心があるのだろうか?自分でもよくわからなかった。



 あっという間に書庫に着き、先に来ていたデュオと軽く挨拶をして向かいの席に座った。デュオが使用している机の上は乱雑に本が置かれていて、デュオと私の前だけ空白が開いている。最初はなかった私の空白ができたのはいつだっただろうか?あまりよく覚えていない。



「最近、エンとは・・・どうだ?」

「そうですね、1週間ほど前にバラ園でお茶をして、それから会っていません。」

「エンも忙しいからな、最近時間が取れないって・・・嘆いていた。優秀なエンでも時間が取れないなんて、俺は・・・2番目でよかった。」

 何か用事があるのかと思っていたが、ただ単に世間話がしたかっただけのようで安心した。テッセラのように、相談しろといわれても話すことはないからどうしようかと思っていたのだ。



 たわいもない話をして、そろそろ帰る頃合いになってきた。



「ミデン、実は今日は・・・渡したいものがある。」

「渡したいものですか?改まって言われると、緊張しますね。」

 なぜか既視感を覚える光景に、何だったと頭を巡らせるがすぐに答えは出た。



「これを、受け取って欲しい・・・」

「これは・・・!」

 差し出されたのは、いつもデュオが身に着けている魔法が封じ込められたペンダントだ。これは、1周目にも起こったこと。そして、ゲームの知識を持っていた私は、このペンダントを受け取らなかった。



「必ずミデンの助けになる・・・俺も、君を守りたい気持ちはテッセラと変わらないんだ、受け取れ。」

「・・・私の助け・・・」

 なるだろうか?私を助けてくれるかはわからないが、少なくても攻略対象者たちよりは希望があるかもしれない。だって、1周目に私はこれを手にしていなかった。



 でも・・・これを受け取ってしまったら。

 どうなるのか知っているはずなのに、気づけば礼を言って私はペンダントを受け取ってしまった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

処理中です...