死にたくないから、ヒロインたちを殺すことにした

製作する黒猫

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 ここで、この世界の魔法について話しておこうと思う。

 この世界には光魔法と闇魔法、影魔法というものが存在していて、そのどれかを使える者には名前が付けられる。例えば、兄のエクス・スコティンヤ・プロートンは、私の名前ミデン・プロートンと比べると分かる通り、一単語多い。兄の名前の「スコティンヤ」という部分が闇魔法の使い手だということを指している。



 ちなみに、光魔法はエン様、トゥリアを見ればわかるが、「フォース」が光魔法の使い手だという証になる。

 影は特殊で、ゲーム内でもたった一人しか登場しない。それは、友情エンドが用意されているテッセラ・スキアー。彼女の「スキアー」は家名でなく影魔法の使い手という意味をあらわしていた。



 結局、どんな魔法が使えるのかといえば、光魔法は物理攻撃、闇魔法は精神攻撃、影魔法は弱体化攻撃という分類だ。







「ミデン、行く用意はできた?」

「はい、お兄様。その、今日もよろしくお願いします。」

 今日は婚約者のエン様とお茶をする日だ。そのために馬車に乗らなければならない私は、兄に闇魔法をかけてもらう約束をしていた。それは、すでに特別なことではなく3年間続いたことだ。



 気づけば、あと6年で私は1週目の私に追いついてしまう時まで過ごした。エン様の婚約者として3年間いたおかげで、エン様の王子の仮面はとれて、見慣れた勝気な顔をよく目にするようになって、懐かしいような惜しいようなそんな日々を過ごしている。

 可愛さもかっこよさに変わっていき、そのうちかすかに残る可愛さもなくなるのかと思えば、ちょっと惜しい・・・けど、かっこいいエン様をもう一度見たい!



「ミデン・・・」

「お兄様。」

 そうだ、これから馬車に乗って・・・その前に兄に魔法をかけてもらわないと。

 闇魔法は、精神攻撃と説明したが、別に精神を狂わせるものばかりではない。今からかけてもらうのは、認識能力を低下させる魔法だ。尋問などに使われる魔法だが、強くかけ過ぎると寝てしまうというのを利用し、私は兄にわざと強くかけてもらい、馬車に乗っている間は寝るのだ。



 立ったままだと眠った時に倒れてしまうので、私はベッドに横になる。そんな私を見下ろした兄が、私の頬に手を添えて微笑んだ。



「大丈夫、怖くないよ。」

「うん、知っているよ、お兄様。」

 何度も魔法をかけてもらったが、最初の数回は流石に怖かったものの、今ではもう何も心配はいらないのはわかっている。全く怖がらない私を見て、兄は困ったように笑った。



「少しは怖がった方がいい。」

「お兄様は私にどうして欲しいの?さっき怖くないって言ったのに?」

「それは私にもわからないな。でも、今はこのままでって思うよ、ミデン。だから、まだお嫁にいったりしないでくれよ?」

「お兄様ったら、まだ先の話ですよ?」

「そうかな?」

 少なくてもあと6年は、エン様と結婚することはない。そして、私が生きられる保証もない。そう考えると背筋がゾクリとする。



「急に怖くなった?」

「・・・ごめんなさい、お兄様。お兄様を信じていないわけではないの。ただ、怖いことを思い出してしまって。」

「わかっているよ。大丈夫・・・」

 頬にあった手が、私の頭へと移動して、優しく私の頭をなでる。それでも恐怖がおさまらない私に、兄の顔が近づいた。

 前髪を分けられて、そこに親愛のキスを落とされる。



「おやすみ。大丈夫、私がずっとそばで守ってあげるから。」



 それは・・・嘘だ。



 ぼやける意識の中で、私はそれが嘘だと怒って、何に怒っていたのか忘れて、意識を失った。







「闇魔法が使えたらよかった。」

「え、何ですかエン様?」

 城にあるバラ園で、エン様と2人お茶をしていると、唐突にエン様はそんなことを言って、不機嫌そうな顔をした。



「光魔法じゃなくて、闇魔法だったら・・・ミデンを助けてあげられるのに。」

「エン様、ありがとうございます。でも、エン様は魔法なんてなくても、私はいつも助けられているので・・・これ以上助けられたら申し訳ないのでちょうどいいです。」

「本当?」

「はい。」

「本当に?」

「はい。どうしたんですか、エン様らしくないです。いつも自信に満ち溢れているのに、何か嫌なことでもありました?」

「・・・自分のちっぽけさを痛感したというか。」

「滝でも見てきたんですか?」

「え、滝?」

「それとも海?」

「???」

「ほら、大自然を眺めると、自分がいかに無力なのかって、感じることありませんか?」

「あー・・・そうだな!そうだ、大自然と比べたら、俺が小さいって感じた小ささなんて、たいしたことない。」

 エン様の瞳に活力がみなぎっているのを感じて、私は微笑んだ。私は、自身に満ち溢れて、みんなをどこまでも引っ張ってくれるエン様が好きだ。だから、エン様の元気がないとどうにかしたいと思うし、落ち着かない。



 それにしても、何があったのだろうか?気になった私は、それを聞くことにした。普通なら聞かないが、エン様の場合立ち直った後なら、話を蒸し返して落ち込むという心配はないからだ。



「あぁ、ただミデンがエクスにお姫様抱っこをされているのを見てね。僕にはできないって・・・でも安心して欲しい。あと数年もすれば、ミデンを軽々と持ち上げてみせるから!」

「それはそれは、楽しみにしていますね。いつか、エン様にお姫様抱っこしていただきたいです・・・その時は、私はウエディングドレスを着ているのでしょうか?」

「そんなに待たせないよ。そうだね・・・その時は制服を着ているかな?」

「・・・楽しみにしていますね。」

 制服ということは、早くて5年ちょっと・・・それから1年もしないうちに・・・あぁ、やめよう。これ以上考えたら、せっかく楽しいお茶会が台無しになってしまう。



「ミデン。」

「エン様?」

 立ち上がったエン様が、座っている私の前に来て突然、跪く。見上げてくる顔がふっと微笑みを浮かべて、私の動悸が激しくなる。



「僕と、踊って頂けませんか?」

 私が手を取るのを待つエン様を見て、私は自然と手を重ねた。



 エン様に手を引かれて、大理石の床の上に連れていかれた。この大理石何のためにあるのかと思っていたけど、こういう時のため?いや、まさか。



 そんなことを考えているうちに、エン様に腰を抱かれてダンスの態勢をとっていた。すぐ近くにあるエン様の顔・・・本当に近くて驚いた。

 そっか、まだ身長差がそんなにないから・・・



「ふん、ふふん、ふんふん」

「ご機嫌ですね。」

 鼻歌を歌いながら踊り始めたエン様。私もエン様に合わせてステップを踏む。

 思い出の中のエン様よりもぎこちないが、それでも何年もパートナーだったのだ。誰と踊るよりもしっくりくるのだろうなと思う。



「僕たちは、パートナーになることが決まっていたのかもね。」

「え・・・」

「だって、ミデンとは初めて踊ったとは思えないほど息が合う。きっと、運命の相手なんだろうな。」

 エン様の言葉が、耳に入らない。私たちが、パートナーになることが決まっていた、その言葉の衝撃が私にとってはどれほどのものか、きっとエン様は知らない。



エン様と婚約することが決まっていたことなら、きっと私が婚約破棄されることも決まっていたこと?そして、死ぬのも・・・決まっていたこと?



 穏やかだった心が、ざわめいた。





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