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4 シナリオ
しおりを挟む何かの気配を感じて、私は目を開けた。
見慣れた天井を認識して、ほっとする。私は生きているんだって実感できる。
「あ・・・ソーニャ・・・」
「ミデン、目が覚めたんだね。」
「え・・・」
誰かいるのが分かっていて声をかけたが、それはソーニャだと思っていた。でも、その声は兄のもので、頭を動かして声の方を見れば、疲れた様子の兄が私を見下ろしていた。
「お、兄さま・・・」
「喉が渇いたね、ソーニャを呼ぼう。」
兄は言葉の通りに、ソーニャを呼ぶベルを鳴らした。すぐに来たソーニャは、頼む前に紅茶の乗ったワゴンを持って入ってきた。
「ミデン様、よかった・・・」
「・・・心配かけてごめんなさい、ソーニャ。」
そうだった。私は馬車に乗ろうとして、唐突に気分が悪くなって気を失ってしまったのだ。今までこんなことはなかったが、おそらく1週目で馬車に乗ったことで死んだことが原因なのは明らかだ。2週目が始まってから一度も馬車に乗る機会がなかったので気づかなかった・・・
学園に通うようになれば、馬車に乗る機会も増えるが、学園前だとパーティーに出たり、エン様に会うときくらい・・・あ。
「パーティー、エン様のガーデンパーティーはどうなりましたか!?」
エン様の婚約者を決める大事なパーティーだ。病気だろうが大怪我をしようが行かなければならないと思っているので、間に合うなら今からでも行きたいと思っているが・・・2人の表情を見て遅かったのだと悟った。
「そんな・・・」
「父上が、殿下に説明に行ったから、心配はいらないよ。悪いようにはならない・・・ほら、まだ本調子ではないだろう?お茶を飲んだらゆっくりお休み。」
「ですが、お兄様・・・」
「ミデン様、どうぞ。」
「ありがとう・・・」
「ある程度冷ましていますが、お気を付けください。そうだ、何かフルーツを持ってきますね。甘いものを食べれば、元気が出ますよ!」
「うん・・・」
ソーニャに返事を返したが、私の頭の中はそれどころじゃなかった。だって、エン様の婚約者を探すパーティーにでなかったらどうなるのか、わからないのだ。
ゲームでの悪役令嬢ミデンも、私が経験した1週目ミデンも、このパーティーには出ていた。そして、婚約者に選ばれるのだ。
普通に考えれば、パーティーにいなかった私は婚約者に選ばれない。それはつまり・・・どういうこと?
私、ミデンがエン様の婚約者に選ばれなかった場合・・・エン様と結婚できない!?いや、婚約したからといって結婚できるわけではないけど。
そう、エン様がヒロインのトゥリアに攻略されれば、私の婚約は破棄されるわけだし、私死ぬわけだし・・・
エン様が攻略されなくても、死んだけどね。だから、死を回避しないとどちらにせよエン様とは結婚できない。
あとは、兄以外の好感度があげにくくなることくらいだ。
それはまずいことだろうか?結局好感度を上げて、良好な関係を築いても結果的には婚約破棄され死んだ。シナリオ通りになってしまったのだ。そうなってくると、好感度を上げる必要性もない気がする。
「むしろ、上げない方が・・・いっそ他人の方がいい?」
いいのかどうかはわからないが、このまま1週目と同じように好感度を上げるよりは、可能性があるかもしれない。
人生、何が起こるかわからないものであると、私はあらためて思った。
「思ったよりも元気そうでよかった。」
そう言ってにっこり笑ったのは、ペンプトン王国第一王子エン・フォース・ペンプトンである。幼いエン様可愛すぎる!いや、9年ほど前にも見たけど、遠い昔の話で・・・エン様を思い浮かべると、金髪に青い瞳で勝気な顔をする凛々しい姿がまず浮かぶ。それがどうだろうか、この愛らしい顔。ギャップが・・・
「わざわざありがとうございます、殿下。その、あの・・・嬉しいです。」
「プロートン嬢は素直で愛らしいですね。」
「そ、そんなことは・・・」
私は全く愛らしくなんてない!愛らしいのはエン様だ!そうだ、そうだった。婚約する前のエン様は、勝気な様子などない穏やかに笑う王子様だった。それは、おそらく城の教育によるものだけど、婚約者になって親しくなるにつれて王子の仮面が外れ、学園ではほとんどその仮面をかぶらなくなるのだ。
1週目のことを思い出すと、エン様と離れたくないという思いが強まった。この世界はゲームで、うまく立ち回らなければ死んでしまう・・・でも、そんなことばかりに支配されるのではなく、私は攻略対象者たち、ヒロインと青春を謳歌していた。
イベントの時が来るたび、必死になって私がイベントをこなした。そうして好感度を上げ、ヒロインとは普通に友情をはぐくんで・・・楽しかった。
エン様が婚約を破棄するなんて考えられなかったし、実際エン様は婚約を破棄しなかったけど・・・私の期待は裏切られて婚約は破棄され死ぬことになった。
あのとき、どれだけ怖かったことか。そして、10年前に逆行していると気づいて、どれほど悔しかったことか。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。殿下、パーティーはいかがでしたか?その、素敵な出会いはありましたでしょうか?」
「えぇ。今回は残念でしたが、かわりに僕の素敵な出会いを紹介いたしましょう。次のパーティーで、僕が用意したドレスを着ていただけますか?」
「え・・・・・・えぇ!?」
「今日であった方々をあなたに紹介いたしますよ。」
つまり、友達を紹介?いや、そうではなくって、次のパーティーにエン様が用意したドレスを着るって!?
ドレスを用意するって・・・それもう婚約者では!?
その考えは間違っていなかったようで、私はガーデンパーティーに出ていないにもかかわらず、エン様の婚約者となった。まぁ、親同士で決めていたのだろう。
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