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3 トラウマ
しおりを挟むミデン2週目だとしても、私はどうすればいいのかという方向性を定められず、とりあえず1週目を繰り返すことにした。兄のエクスは、ゲームでは裏の攻略対象、その特別感からも、兄の頭の良さ要領の良さを考えても敵に回すほうが危険だ。
だから、1週目と同じように好かれるよう、私は勉強した。
兄と同じように勉強し、兄を尊重するようにわからない箇所を聞く。
「ミデンどうかしたの?」
「お兄様、少しいいですか?わからないところがあって・・・」
「あぁ、かまわないよ。ミデンは勉強熱心で偉いね。」
兄の部屋に入り、いつものようにソファに腰を下ろした。机に向かって座っていた兄も、いつもと同じように私の隣へと腰を下ろす。
そして、私が分からないと言った箇所を丁寧に説明してくれた。理解を示せば、いい子だと言って頭を優しくなでてくれる兄。この優しい時間が、いつまでも続けばいいのにと思う。
そう、このままいけば、私は死ぬ。1週目と同じでは意味がない。1週目の敵を、2週目で味方につけるか、退けなければならない。でも、その敵が分からないのだ。
誰が敵なのかを知るためには、情報を集める必要がある。そして、それは他人の力を借りなければ、ただの令嬢である私にはできないことだ。たとえば、兄の力。
5つも年上で、要領の良い兄の力を借りられれば、ある程度安心できる。ただ、1週目でも兄を味方にしていて私は死んだので、私から兄に調べてもらうように頼むしかない。
しかし、調べるとは言っても何を調べればいいのか見当もつかず、今は兄の好感度を上げることに専念した。
「ミデン?」
「あ、すみません。ぼーっとしていました。」
「ミデン、ペンを置いてこっちを見て?」
「あ、はい・・・」
このように指摘されたことは何度かあるので、お小言だろうか?好感度を上げるために来たのに、逆に下げていないかと心配になる。兄の顔をそっと見上げれば、眉をさげた心配顔をしているが・・・兄の仮面は私にはわからないので、本当に心配しているかは微妙だ。
「何か心配事があるのかい?」
「それは・・・あるけど、言いたくないです。」
「・・・そう。なら、おいで。」
「え・・・?」
よくわからず兄を見続けていると、兄は仕方がないと笑って、私との距離を詰めて抱きしめてきた。え?
混乱する頭に優しく手を置かれて、髪の流れに沿って撫でられる。
「大丈夫だよ、ミデン。大丈夫だから。」
「お兄様・・・」
「そうだよ、私はミデンの兄だ。だから、たとえどんな困難があったとしても、ミデンを守るから。」
「私を・・・」
「そうだよ、ミデンを守る。」
「ふぇ・・・ぐすっ・・・」
「大丈夫だから、ミデン。」
「ごめん、なさいぃ・・・」
「大丈夫だよ。」
優しく頭をなで続け、言葉をかけ続けてくれる兄の胸の中で、私はみっともなく泣いてしまった。きっと、幼い体に精神が引っ張られてしまったのだろう。
兄には本当に申し訳ないと思う。
だって、私が泣いている理由は・・・
―――嘘つき。
そう思ってしまって、自分のことが嫌になってしまったから。
私は、1週目自分を救ってくれなかった兄に対しての不満を、心の中でとはいえ呟いてしまった。兄が私を貶めたわけではないのに。
でも、どうしても許せない自分がいる。兄の力を借りようとしている癖に、私を死の運命から助けてくれなかったことを呪う声が、奥底から聞こえた。
悩みながらも兄の好感度を上げ、私は7歳になった。
私の婚約者となるエン様と出会う歳だ。エン様の婚約者候補を集めたガーデンパーティーで私はエン様と出会った。
ゲームでは、ミデンとエンの出会いは描かれていないのでわからないが、1週目では普通に会話・・・少々興奮気味に会話をしていたら、婚約者に選ばれた。ゲームとは違い、エン様は私に対していやがるそぶりは全くなく、出会いから破棄まで円滑な関係を築いていたので、今回も私で決まるのだろうとなんとなく思っている。きっと、親同士で決めていることだろうし。
そんなことを考えているうちに、そのパーティの日がやってきた。1週目と同じ、黄色のドレスを着て、私は城へ行くために馬車に乗ろうとして立ち止まった。
馬車に乗ると、死ぬ。
本能を言葉で表すなら、この一言に尽きるだろう。足が震えて、背中に嫌な汗をかいた。手もぐっしょりと濡れてしまっている。
気持ち悪い。
「ミデン様?いかがなさいまし・・・誰か、医者を!ミデン様、申し訳ございません。体調がすぐれないのですね。」
「あ・・・い・・・」
何か言わないと。ソーニャは悪くないって、馬車を見たせいだって。でも、意味のない声が出るだけで言葉が出ない。
「どうした!ミデン!」
「あぁ!エクス様、ミデン様のお顔が真っ青なのです!」
「ミデン、大丈夫、大丈夫だから。」
「・・・に、さま。」
私に駆け寄ってきた兄が、私を抱きしめて背中をさすった。あ、だめ・・・吐きそう。
「うっ。」
「ミデン!?」
抱きしめてくれる兄には悪いが、私は兄を力の限り押して、間を置かずに吐いた。嫌だ、なんでこんなことに。怖い。死にたくない。馬車に乗りたくない。
「うぇ、うぇーげほっ。」
「ミデン。大丈夫だから。」
大丈夫じゃない。馬車に乗ったら私は死ぬのに!
死が、死が・・・身体が動かなくて、どうしようもできなくて・・・青い空が、赤い空が!死にたくない!!怖い、嫌だ・・・だれか・・・
誰も、助けてくれなかった。だから、私は死んだ。
ぷつんと、そこで意識が途切れた。
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