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31 出発
しおりを挟む目の前で女性が殺された。そんな光景を目の当たりにした私は、驚くほど冷静だった。不思議に思ったが、自分に危険がないことを理解しているからかもしれない。
アレスは、この部屋を出て行くときに、しばらくはこの場所が安全であると言っていた。そんな場所の近くで女性は殺されたわけだが、それはアレスと出会ってしまったから仕方がない。運がなかったのだ。
まだ私を殺すつもりはないと、アレスは言っていたが、他の人間は殺すつもりらしいことがわかった。私を殺さないのは、その方が面白いからだと言っていた。
とりあえず状況を整理しよう。
私は、彼を追ってこの島に来た。彼とは、ギフトと呼ばれる金髪青目の男性で、私に好くしてくれた人だ。ま、監禁・・・閉じ込められたけど。
彼は今、船に乗っている。その船は、西の港にあり、ここは東寄りなのでかなり遠い。普通に行く分には歩いて1日とかからないらしいが、ここにはアレスのような殺人鬼が徘徊しているので、隠れながら行かなければならない。
殺人鬼と勝手に言っているが、この島に来た者は楽園に行くことを望んでいるのが前提のため、嫌悪感でそう呼ぶのは身勝手だろう。殺人鬼たちは、ここに来たものを楽園に送るために、人を殺すのだ。文句を言うのは間違っている。
その殺人鬼たちから隠れながら、彼のいる西の港を目指す。そこまで行き、彼と再会すれば、楽園島に戻れるだろうと言っていった。
だけど、一つ注意すべきことがある。様々なことを教えてくれたアレスだが、彼も殺人鬼だ。次にアレスと出会ったら、アレスは私を殺しに来ると言っていた。そして、アレスは船に戻るとも言っていたので、殺されないように慎重に行かなければならない。
つまり、彼と再会するまでは、死と隣り合わせということだ。
「いろんな意味で早く会いたい。特に、これについても聞きたいし。」
アレスからもらったカバンの中から、一枚の写真を取り出した。そこに写っているのは彼と、私の顔だ。カメラに向かって2人はポーズをとっているが、こんな写真を撮った覚えはないし、何より違和感をおぼえたのは私の目だ。
顔は笑っているが、目が暗い。楽しんでいないわけではないようだが、どことなく暗い。こんな目、一度だって鏡で見たことがないはずだ。私はこんな目をしない。
でも、最初に思ったのは真逆のこと。これが私だと思ったのだ。
今まで自分の姿に違和感を抱いていた。どこか違うと。でも、どこを見ても私は私で、違いはなかった。でも、その違和感がこの写真にはなかった。私ではないと思うと同時に私だと思う。変な話だが、彼に確かめれば何かわかるかもしれない。
私は写真をしまって、立ち上がる。
この町を抜けると、山がある。その山にはトラップがあると言っていた。殺人鬼だけではなく、トラップにも気を付けなければならないが、近道らしいので山に行くことにした。
そっと、息を殺して障子の穴から外をうかがう。アレスはもういない。人影はなかった。
なるべく音をたてないように障子を開け、ガラス戸も開ける。かすかな血の匂いがしたのは気のせいではないだろう。地面に倒れ伏した女性を見れば、血のシミを地面に作っていた。私自身濃い血の匂いをまとっているのに、よく認識できたと思う。
今の私の姿だが、血まみれだ。これは防弾チョッキに仕込まれていた血液パックの血なので、返り血とか自分の血ではない。正直着替えたいが、着替えもないし、いざというときは死んだふりをするのにこの格好は好都合だからこのままでいいだろう。
私は外に出た。
たったそれだけの行為に、心臓が暴れるように音をたてた。
生きて、彼にまた会えるだろうか。
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