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17 勝負

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「今夜は寝かせませんよ。」
 にっこり笑った彼が、テーブルの上に広げたのはトランプ。

「私が勝ったら寝るから。あと、20分くらいで消灯するよ。」
 冷や汗を流す私だが、勝つまでゲームを続けるつもりだ。だって、悔しいから。

 ボードゲームを3つ、トランプゲームを2つやったが、全て彼の勝ちで終わった。このままでは、悔しくて寝られない。次こそは絶対勝つ。

「次は何をいたしますか?ババ、ジジ抜きはやりましたね。大富豪にしますか?それとも、ボードゲームにします?何でもいいですよ、何でも同じことですから。」
 余裕の笑みを浮かべる彼の顔が、これほど憎らしいと思ったことはない。

 頭の回転が速く、ポーカーフェイスな彼に勝つことは難しい。ゲームの類は、頭脳戦と心理戦だ。私に勝ち目はない。
 だけど、私は勝ちたい。何か、勝てそうなゲームはないだろうか?

 置いてあるボードゲームを見るが、どれも見たことないものばかり。だからといって、トランプゲームも、結果は見えている。

 もう、あれしかない。

 頭脳でも、心理でも勝てないのなら。

「腕相撲をしよう。」
「・・・はい?」
 聞き返した彼の目の前に、袖をまくった腕で肘をついてだした。

「腕相撲。頭で勝てないのなら、力で勝つ!」
「・・・えーと、それは・・・」
「何?怖いの?」
「・・・いいえ。わかりました。」
 彼も腕まくりをして、私の手を掴む。私よりも大きな手は、暖かい。それに、腕もマッチョというほどではないが、程よく筋肉が付いていて・・・うん、負けた。

「勝てる気がしない。」
「当たり前でしょう。こんな小さな手で、男に勝てると思ったのですか?」
「・・・思ってたんだろうね。」
「・・・」
 彼は、私を数秒見つめて、私の手を引っ張った。突然のことに、何の抵抗もできず、私は机の上に上体を預ける。すると、また引っ張られて、ぐるぐると景色が変わって、気づくと再び彼と見つめ合っていた。

「な、何?」
 机の上に仰向けになった私と、それを見下ろす彼。

「2度と・・・勝てるとは思いませんように。」
 身の程を知れということだろうか?たかがゲームで、なぜこんなことになっているのだろう。

「あなたは弱い。いいえ、人は弱い。だから、油断しないでください。人なんて、簡単に死んでしまう、弱い生き物なのですから。」
「・・・なんでいきなり死ぬとか、物騒な話をするの?」
「そうなって欲しくないからです。いいですか、忘れないでください。人は弱くて、簡単に死んでしまう生き物なのです。だから、慎重に生きてください。決して油断なさらないように。」
「わかったから、そろそろいい?」
 仰向けになっている状態というのは、少し恥ずかしい。人に見降ろされていると、特に。

「・・・っごめん。」
「?」
 彼は顔を赤くして目をそらした。

 私は、自分の姿を見たが、ちょっと着崩れしているだけで、別にポロリなどはしていない。何を赤くなる必要があるのだろうか?だが、聞くのも恥ずかしいので、何も言わず席に着き、トランプをきった。

「さ、始めようか。」


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