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9 墓
しおりを挟む海が一望できる丘の上。
楽園島にあるそこは、唯一の墓地。立ち入り禁止の場所で、そこに入れるのは銀のカードを持つ者のみ。
そんな銀のカードを持つ男は、慣れた様子でその墓地の中に入る。墓地に入れば、迷いなく足を進め、一つの墓の前で立ち止まった。
ピンクの花で統一された花束を、墓の前に置いて、彼は目をつぶる。
彼は、心の中でひたすら謝って、懺悔を繰り返した。それはいつものことで、墓の下で眠る者も聞き飽きたとため息をつくことだろう。
「僕のせいだ。僕がいなければ、幸せだった。あの子の顔を見ればわかる。僕のことを知らないあの子は、とても幸せそうなんだ。きっと、あの子は、楽園に逃げ込む必要はない。」
「君も、本当はそうあるべきだった。でも、僕が狂わせた。」
「僕さえいなければ、君はここに来ることも、死ぬこともなかったのに。あんな、怖い目にあうことも、理不尽な扱いを受けることもなかった。」
彼は顔をあげて、青い海を見る。太陽の光を反射する海は、透明度も高く、綺麗だ。ここは墓地だというのに、背筋が寒くなるような場所ではない。どこか暖かく、美しい場所で、眠っている者は幸せだろうと思う。
だが、美しい景色も彼には何の意味もない。彼はただ顔をあげて海があるとは認識したがそれだけだ。
彼は昨日のことを思い出していた。一緒に祭りに行った彼女。一昨日初めて会った彼女は、彼にとって守らなければならない存在だ。
顔は見慣れているのに、その言動、行動・・・目の輝きが違う。すべてがどこかきらきらとしていて、ポジティブだ。
だけど好きな色を聞いた時の彼女は、どこか人間味がないように感じた。迷うことなくピンクと答えた彼女。でも、彼女が選ぶ色は水色だ。綿あめにしてもブレスレットにしても、彼女はピンク色のものを見ていない。それなのに、彼女はピンクが好きだという。それが決まりのように。
顔を下に向けて、墓の前に置いた花束を見る。
「君は、ピンクが好きだったね。花は気に入ってくれたかな?」
昨日、彼女にピンクの着物と綿あめをあげた。でも、綿あめをあげた時点で、彼は彼女の好きな色がピンクではないことに気づいた。
「彼女には、今度水色のものを送ることにするよ。やっぱり、ピンクは君の色だし、本人の好きな色の方が喜んでくれると思うんだ。」
彼は、彼女もピンクが好きだと思っていた。
だって、顔が同じで、紅茶が好きだから。もしかしたら、紅茶も好きではないかもしれない。彼女は何が好きなのだろうか?きっと、好きな飲み物を聞けば紅茶と答えるだろうから、よく観察しなければ。
彼女には幸せになってもらわなければならない。でなければ、彼は救われない。
「・・・またね。」
彼は、墓石の上にそっと手を置いた後、その場を離れた。
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