【完結】リアルデス 世界を救うより、妖精を育てよう

製作する黒猫

文字の大きさ
上 下
18 / 19

18 望みは最高のもの

しおりを挟む


 気を失ったカメリアを懐に入れて、俺は宿に戻った。

 部屋に入ると、カメリアをベッドに寝かせて、俺は椅子に腰を掛けてため息をついた。



 自己嫌悪。



 おそらくカメリアは、ただ気を失っているだけ。それだけだと思う。それでも、俺はもう少し考えて行動するべきだった。



「そうだ。怠惰のスキルは、文字化けがひどくて、いかにもおかしなスキルだった。危険があるという可能性を考えるべきだったのに。」

 前回カメリアが倒れたのは、極度の緊張の疲れのためだと思っていた。たいして強くもないカメリアが、鎧武者という強者を相手にしたのだ。当然のごとく死にかけたし、その時のストレスは相当のものだったと思う。



 そう勝手に思っていた。実際は、スキルを使った反動だったのに。だが、反動が気を失う程度でよかった。



「実験して正解だったかもしれない。」

 アッタクルーズを使用すると、反動がある。それだけが知れた。でも、それは大事なことだ。

 このスキルを使えば気を失う。それを知らなければ、いざ使ったときに命の危険があった可能性が高い。



 それでも、予測はしておくべきだったことは変わらない。



「怠惰のスキルは・・・封印しよう。いや、大罪スキルはすべて封印するべきか。」

 俺の憤怒と嫉妬は、いまだに取得すらしていない。色々あって忘れていたのだ。

 本当なら、取得して実験してから使うかどうか、決めたいところだ。しかし、俺に何かあって困るのはカメリア。そう思えば、危険は避けるべきだ。



 ベッドの方を見れば、カメリアはいまだに動かない。



 俺の目的は、彼女を育てること。

 なぜなら、俺は彼女のおかげで満たされたから。



 ずっと、仲間というものに憧れていた。テレビや本で見る、素晴らしい友情。それは憧れだ。

 もちろん、異世界に行く前の俺は、仲のいい友達がいたが、いざというときに助けてくれる、素晴らしい友達なのかは疑問だった。だって、そんないざというときはなかったから。

 当たり前だ。平和な国で、学生としてただ勉強をしているだけなのだから。魔物もいない。犯罪は少なく、治安がいい。

 そんな場所でいざという出来事は起きなかった。それでも、その国から出なければ、仲のいい友達は、仲間だったのかもしれない。



 変わってしまったのは、もちろん異世界に来たせい・・・召喚されたせいだ。



 平和とは言えない、命の危険がある世界で、その世界に平和をもたらす勇者として召喚された。そこで得た仲間は、本物だった。

 まさに俺の望んだ仲間。



 命をかけた戦いでもお互いを助け合い、仲間のためなら命も捨てられる。そんな仲間たち。



 だけど、世界を平和にした俺は、気づいたのだ。仲間なのは仲間たちだけ。俺は、しょせん別世界の人間。よそ者だと。



 元の世界へ帰る俺を止める者は誰もイナカッタ。





 元の世界に戻った俺は、友達を仲間とは思えなかった。いつの間にか、俺は友達内で浮き始めて、自然に疎遠となる。喧嘩をしたわけではないが、だからこそ輪の中に戻ることもできなかった。

 喧嘩をしたなら、謝って、元に戻れる。でも、自然にそうなってしまったものは、どうしようもないのだ。





 だから、もう一度。

 もう一度、異世界に行きたかった。今度は本当の仲間を手に入れるために。

 俺がよそ者ではなく、仲間になれる仲間を探すために。





 そして、出会ったのは妖精という存在。

 俺の案内人。俺のためだけにいる妖精。



 俺から絶対離れない存在ができたとき、俺は満たされた。これで本当の仲間ができると。お互い助け合って、俺がどこへ行くにもついていく。見送ったりなんてしない。ずっとともにいる存在。



 満たされた俺は、満たしてくれたカメリアも満たしてやりたいと思った。

 カメリアを選んだのは、俺の目に似た目を持っていたから。諦めた目は、陰っていたので、それに光を取り戻し、希望に満ちた目にさせたいと思った。



 もともと妖精を育てるつもりだったが、カメリアの願いに気づいてからは、より一層その思いが強くなり、俺の目的となる。



 これは、恩返しではない。ただの罪滅ぼしだ。

 俺の欲を満たすために、旅に連れてきた罪滅ぼし。



「望みは、できるだけ叶える。だけど、もう少し我慢して欲しい。」

 俺には、何もかもが足りない。



 力も知識も金も・・・足りない。



 魔王を倒した力も、全てが使えるわけではなく、大幅に戦力ダウンしていた。そして、知識はもちろんゼロに等しい。言葉だってわからない、というありさまだ。金もない。



 いつか、どんな敵の相手にも不安を抱かない力を手に入れて、世界のありとあらゆる知識を手にし、好きなものを好きなだけ買える程度の金を手に入れる。



 そして、一番の願い。強さをカメリアに与える。



 だから・・・



「セキ・・・ミヤ?」

 小さな声が聞こえた。カメリアが目覚めたのだ。



「大丈夫か、カメリア。悪かった。俺が実験なんかしたせいで、スキルの反動で気を失ったようだ。悪い。」

 俺が視線を落とすと、くすくすと笑う声が聞こえて、視線を上げた。そこには、怒っている様子が全く感じられないカメリア。怒りやすいはずなのに、この件には怒っていないようだ。



「怒らないんだな。」

 カメリアは笑って頷いた。そして、元気だとアピールするように飛んで、俺の周りをくるくると飛び回る。



「わかったよ。元気でよかった。カメリア・・・」

 俺は手のひらを上に向けて、カメリアを呼ぶ。彼女はすぐにその意図が分かったようで、俺の掌の上に腰を掛けた。柔らかい。



「不甲斐ない俺だけど、これからもよろしくな。」

 格好悪いと自覚するが、俺についてこいと、強く言えるほど自分に自信はない。どちらにせよ、カメリアに選択肢はないので、彼女は苦笑いして答えた。

 「当たり前じゃない。」そんな風に聞こえた。実際はわからないが。



 コンコン。



「・・・」

 なんだろう、昨日も同じことがあった気がする。誰かが部屋をノックした。

 俺は、何のために早起きをしたのか。いまさら思い出しても、もう遅い。



「はぁ。仕方がないか。」

 俺は覚悟を決めた。



「どうぞ、鍵は開いています。」

 俺がそう答えれば、すぐに扉は開かれた。中に入ってきた人物は、予想通りだ。



「昨日ぶりですね。カーターさんにモリさん。」

「あぁ。早く、話す、望む。」

「こんにちは。そこ、座る、いい?」

「どうぞ、狭いところですが、お好きなところに腰をおかけください。」

 そう言えば、2人は並んでベッドに腰を掛けた。俺は椅子、カメリアは机の上にいる。



「では、早速本題ですが・・・初めに言っておきます。私は今の生活に満足しており、記憶を取り戻したいだとか、記憶を失う前の関係を続けたいだとかは、思っておりません。ですので、正直昔話をされても迷惑です。なので、この一回で終わらせてください。」

 一気にまくしたてれば、2人は驚いた様子だった。ま、顔は仮面に隠れているのでわからないが、なんとなく雰囲気でわかるのだ。



「・・・そう、明確、言われる、辛い。」

「では、まず、話す、前、これ、見る。」

 そう言って、モリは仮面を外した。いつも明るい笑顔をしていた顔は、少し悲しげだった。それでも、口元は微笑んでいる。



「こんなことを言われても困ると思うけど、また会えてうれしいよ。セキミヤ、改めてウチはモリ。あなたの仲間だったアサシン、モリだよ!お月様!」

 流ちょうに話し始めた、モリは無理に笑っていた。俺と会えたことが嬉しいと言っていたが、本当なのだろうか?嬉しいなら、なぜ普通に笑わないのか?

 モリに続いて、カーターが仮面を外す。



「・・・カーターだ。覚えてないのか?」

 こちらは笑うことなく、悲しげだった。



「何度も言いますが、全く覚えがありませんね。満足ですか?」

 突き放すように言えば、カーターが怒鳴った。立ち上がって、俺に迫るその顔に浮かぶのは怒りだ。



「俺たち仲間だろ!?なんで思い出せねーんだよ!」

 仲間?その言葉に、俺の心臓が大きく音を鳴らす。それは、怒りによるものだ。誰がどの口で仲間などと言ったのか?俺を引き留めなかったくせに。



「やめなよ!カーター!ごめん、2人とも本当に仲が良かったから、ショックが大きかったみたい。・・・それは、ウチも同じだけどね。」

 俺とカーターの間に入り、モリは悲しそうに言う。



 なんで、そんなに悲しそうなんだよ。悲しいのは、お前たちじゃない。俺だ!



「もう、よろしいですか?」

「セキミヤ・・・」

「顔を見せてもだめだったかー、ははっ。」

 諦めた様子を見せた2人に、俺の胸は少し痛んだ。こんなことで諦めるのか。俺はその程度だったのだと。



 どうやら俺は、いまだにカーターたちに何かを期待していたらしい。馬鹿だよな、全く。

 そして、わがままだ。



「どうやら話は終わりのようですね。お気をつけてお帰りください。」

 俺はそう言ったが、2人は動かない。そんな2人に俺はため息をついた。



「まだな何か?思い出の一つくらいなら聞いてもいいですが、手短にお願いします。」

「・・・」

「セッキー・・・思い出話はいいわ。」

「モリ?」

「そうですか、なら。」

 お帰りを。そう促そうとした俺の言葉を遮って、モリは言った。



「ウチらと、一つだけでいいの!依頼を受けてっ!」

「はぁ?」

「モリ!それはいいな!一緒に行動すれば、思い出すかもしれない!」

 思い出すも何も、忘れてないけどな。



 にしても、それは面倒だ。だが、それで納得するのなら、ありかもしれない。



「わかりました。依頼は適当に見繕ってください。ちなみに、私のランクは銅ですので、お気を付けください。」

「銅っ!?セキミヤが!?」

「セッキー・・・まさか、力まで。」

 想像力豊かだな。どうやら俺が力まで失ったと思っているようだ。間違いではないが。



「わかった。なら、明日の・・・今日と同じ時間に迎えに来る。ここで待っていて欲しい。」

「仕方がないですね。ですが、明日で最後にしてください。迷惑なので。」

 俺の言葉は、2人の胸をえぐったようだ。どちらも力なく返事をして、やっと部屋から出て行ってくれた。



「やっと行った。でも、また明日会うのか。」

 憂鬱だな。



 そういえば、あの仮面は何だったのか?

 あの仮面を取った後、カーターたちの言葉は片言ではなくなった。呪いでもかかっているのか、あの仮面。なら、なぜあの仮面をつけるのか?

 なぞだったが、俺は明日聞けばいいかと、考えることをやめた。



 視線を感じて目を合わせ、俺はカメリアに言葉をかけた。



「騒がしくして悪かったな。でも、明日で最後だ。もう少しの辛抱だから我慢してくれ。」

 カメリアは首を振って、俺の手に手を重ねた。何事か言うが、全くわからない。



「どうした?嫌か?」

 それにも首を振る。



「なら、なんだ?」

「セキミヤ・・・」

 いいの?と問われた気がした。

 気のせいかもしれないが、俺は答える。



「昔の話だよ。だから、もう終わったことだから。」

 俺の言葉を聞いたカメリアは、それ以上何も言わなかった。でも、心配そうな目をこちらに向けてきて、俺の心は温かくなる。



「俺には、カメリアがいる。あなただけでいいんだ、俺は。」

 仲間はカメリア一人で十分。他に仲間を入れて、本当の仲間になれなかったら、俺が苦しむだけだ。なら、本当の仲間のカメリアだけでいい。



 多くは望まない。だから、最高を望む。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

がんばれ宮廷楽師!  ~ラヴェルさんの場合~

やみなべ
ファンタジー
 シレジア国の宮廷楽師としての日々を過ごす元吟遊詩人のラヴェルさんよんじゅっさい。  若かりし頃は、頼りない、情けない、弱っちいと、ヒーローという言葉とは縁遠い人物であるも今はシレジア国のクレイル王から絶大な信頼を寄せる側近となっていた。  そんな頼り?となる彼に、王からある仕事を依頼された。  その時はまたいつもの戯れともいうべき悪い癖が出たのかと思って蓋を開けてみれば……  国どころか世界そのものが破滅になりかねないピンチを救えという、一介の宮廷楽師に依頼するようなものでなかった。  様々な理由で断る選択肢がなかったラヴェルさんは泣く泣くこの依頼を引き受ける事となる。  果たしてラヴェルさんは無事に依頼を遂行して世界を救う英雄となれるのか、はたまた…… ※ このお話は『がんばれ吟遊詩人! ~ラヴェル君の場合~』と『いつかサクラの木の下で…… -乙女ゲームお花畑ヒロインざまぁ劇の裏側、ハッピーエンドに隠されたバッドエンドの物語-』とのクロスオーバー作品です。  時間軸としては『いつサク』の最終話から数日後で、エクレアの前世の知人が自分を題材にした本を出版した事を知り、抗議するため出向いた……っという経緯であり、『ラヴェル君』の本編から約20年経過。  向こうの本編にはないあるエピソードを経由されたパラレルの世界となってますが、世界観と登場人物は『ラヴェル君』の世界とほぼ同じなので、もし彼等の活躍をもっと知りたいならぜひとも本家も読んでやってくださいまし。 URL http://blue.zero.jp/zbf34605/bard/bardf.html  ちなみにラヴェル君の作者曰く、このお話でのラヴェルさんとお兄ちゃんの扱いは全く問題ないとか…… (言い換えればラヴェル君は本家でもこんな扱われ方なのである……_(:3 」∠)_)

処理中です...