【完結】リアルデス 世界を救うより、妖精を育てよう

製作する黒猫

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 ザシュっ・・・何の音だろう?どこかで聞いたことがある音だ。

 ポカポカとした陽気と私の体温で暖められた地面・・・石の上だろうか?私はそこに寝転がっている。目を開けて、現状を確かめることにした。



 ザシュっ・・・一匹の哀れなスライムが、セキミヤに木の枝で串刺しにされていた。



「な、何を・・・!?」

 昨日大量のスライムを狩り、カレッジが目をそらしたくなるほど手に入ったというのに、なぜまだスライムを狩っているのだろうか?



「やめなさいよ!セキミヤ!」

 叫べば、彼は木の枝を振って、スライムの死骸を飛ばした。そして、急いで私の元まで来て笑った。



「よかった、目が覚めたんだな!」

「うん。・・・えぇ!?」

 返事をしてから気づく。彼の言葉がわかるということに。今まで何を言っていたのかわからなかった彼の言葉が、今は普通にわかる。



「え、どういうこと?え?え?」

 戸惑う私に、彼は苦笑した。



「やっぱりアイテムが切れたみたいだな、何言ってんのか分かんねーや。」

「えぇ!?アイテムが切れたって・・・」

 太陽の位置を見れば、真上より少し下がっていた。昼は過ぎているだろう。



「嘘・・・せっかくセキミヤの言うことがわかるのに、これでは話ができないわ。」

「ま、残念だけど・・・これで俺が言いたいことが伝わると思うと、それはそれで嬉しいよ。」

「言いたいこと?」

 私はその続きを聞きたくなかった。もし、私に対しての文句だったら?役立たずといわれたら?そう思うと怖いのだ。

 言われる可能性は十分にある。だって、つい先ほど私のせいで彼は敵の攻撃を受けたのだから。あの時の光景を思い出し、体が震えた。



「改めて、俺はセキミヤ。といっても、名前は偽名だ。実は異世界に転移するのは2度目で、前の世界では勇者をやっていた。魔王を倒した実績もあるぞ。」

「・・・は?」

 ちょっと待って。一度の情報量が・・・てか、勇者?強いわけだわ!



「え、ってことは、魔王を倒すほどの人間に、魔物の雑魚を危険だと忠告していたの?いや、雑魚じゃないけど、魔王と比べたら雑魚だし。」

「あー悪い。質問されてもわからない。」

「質問なんてしてないわっ!あんた、強いなら強いって、言いなさいよ!」

 そうは叫んだものの、彼が強いと感じる部分は十分にあった。おそらく彼は、戦っている姿を見せて強さを示していたのだろう。それに気づかなかった私が悪い。

 頭を抱えて、自己嫌悪に陥った。



「そうだ、状況説明しないとな。実は、カメリアが気を失った後、暇だったからレスとカレッジを確認していたんだ。」

「え、私気絶したの?そういえば、ここで寝転がっていたし・・・あれ、そういえばなんで草原にいるの?確か森にいたはずなのに。」

 昨日も座っていた、草原の石の上に私はいた。しかし、意識を失う前は、ベア一家を討伐するために、森にあるベア一家の巣の前にいたはずだ。そして、そこで鎧武者から攻撃を受けた。



「・・・よくわからないから続けるぞ。レスをまず見たんだが、なぜか増えていてな。30レスは、昨日の時点で貯まっていたんだが、それが42レスになっていた。色々考えたんだが、おそらくアント種の巣のおかげだと俺は思っている。」

「貯まっていたですって!?30レスあれば、自動翻訳がとれていたはずよ!なぜ取らな・・・って、ちょっと、私に取らせているよね、これ!何してんのよ!」

 叫びまくった。

 だって、彼はまた無駄遣いしたのだ。私が彼の言葉を理解できるということは、私にレスを使い、自動翻訳を取らせたのだ。

 さらに、昨日には必要数貯まっていたというのに、なぜ取らなかったのか。



「怒っているようだな。ま、レスを貯めたのは俺だ。使い方は俺が決める。それで、アント種の巣の話だが、あれは報酬をもらえなかった。それが良かったのではないかと俺は思っているんだ。」

「悪いけど、アント種はどうでもいいのよ。確かにレスを貯めたのはあんただけど、だからといって無駄使いするべきではないわ。」

「報酬は惜しかったが、それよりもレスが欲しかったからな。助かった。」

「話が通じない・・・不便だわ。」

「金は別の方法で集めればいいさ。」

「だから、その話はどうでもいいのよ。」

 なんだろう。やっと彼の言葉を理解できるようになったのに、嬉しさよりもイライラが上回る。彼もこんな感じだったのだろうか。



「それで、カレッジだが、マイナス40万カレッジになっていてな。返済期限も明日までなんだ。ま、スライムがいるから大丈夫だと思うが。」

「は?」

「よくわからないという顔だな。俺もだよ。ただ、鑑定を使った結果、マイナスになったのは俺の称号のせいだと思う。」

 鑑定?称号?てか、あれだけあったカレッジはどこへ消えた?



「あぁ、俺は鑑定っていう、対象の名前、種族、称号がわかるスキルが使えるんだ。ま、全部わかるわけじゃねーけど。それで、俺自身に鑑定した結果、俺の称号の中に「金を借りるプロ」というものがあった。もっとかっこいい名前はなかったのか・・・いや、借金という時点で格好がつかないな。」

 鑑定はわかったが、いまいち称号はどういった物かわからない。

金を借りるプロ。それがカレッジと何の関係があるのか。



「借りれるのが、金だけじゃなかったみたいだ。そして、その効果だが、絶体絶命のピンチに、どのような人物からでも借りることができる、というもので。ま、誰に借りたんだよって話だが、誰かからカレッジを借りたようだ。」

「・・・わからないことは多いけど、借金返済のためにスライムを狩っていたってことね。」

 それなら仕方がない。



「それで、あとどれくらい必要なの?」

「?」

「あー・・・これよ、これ。」

 私は青の指輪を指さす。すると彼は頷いて、カレッジの板を出した。



「どれどれ・・・は?」

 そこにあったのは、10万カレッジの表示。マイナスはついていない。



「あんた・・・」

「あれ、おかしいな・・・さっきはマイナスが付いていたんだ。本当だぞ!?」

 そこは疑っていない。だって、そんな嘘をつくメリットがないのだから。問題なのは、マイナスをプラスにするほどのスライムを狩ったことだ。



「生態系が壊れるって、言ったでしょ!?本当に私の話を聞かないわね、あんたは!」

「・・・わからないけど、何言ってるのか想像はつくな。ま、大丈夫だろ。ほら、あっちこっちでスライムも跳び回っているし・・・し?」

 彼は固まったと思えば、目をきょろきょろと動かして、明らかに挙動不審だった。冷や汗まで流している。どうしたのだろうと辺りを見回せば、前まであちらこちらで跳んでいたスライムの数が激減していた。



「ねぇ、何が大丈夫なの?」

「すんませんでしたー!」

 彼は私を素早く懐に入れ、逃げ足で町へと逃げて行った。







 町に着いた私たちは、とりあえずギルドにベア一家のことを報告することにした。



「どうやって説明すればいいのかしら。」

 ベア一家は、なぜかすでに倒されていた。誰が討伐したのかは不明だ。



「状況から見れば、あの鎧武者の可能性が高いわね。でも、ベア一家を倒す理由も思いつかないわね。わからないことだらけで疲れるわ。」

「どうしたんだ?ま、相談されてもわかんねーけど。」

「そうね。あんたが自動翻訳を取ってくれていたら、私はこんなに悩まなかったのに。」

「なんだ、俺が悪いのか?」

「・・・ま、いいわ。少しくらい役に立たないとね。」



 カラーン。

 ギルドに入り、受付に行く。あ、そういえば、従魔のリングを付けてなかった。ま、いいか。



 彼は受付に身分証と討伐証明部位を提出した。いつもならそれで事足りるのだが、私は正直に話すことにした。



「討伐対象だけど、私たちが巣に行った時には、もう殺されていたわ。一応、その証明のために、それを持ってきたわけだけだけど、そういう場合はどうなるのかしら?」

「そうですか。」

「ちょっ、カメリア。鎧武者のことは言うなよ。」

「え、違うわよ。ベア一家のことよ。それで、どうなるのかしら?」

 これで報酬をもらえなければ散々だが、後から問題が起きても面倒だ。初めから正直に報告するべきだろう。



「報酬は支払いましょう。ですが、素材は持っていますか?」

「えぇ。」

「なら、素材の方は一週間そのまま持っていてください。もし、倒したと申し出る者がいれば、確認を取った後素材の権利をその者と話し合う必要があります。それによっては、素材の一部を相手に渡すことになるでしょう。よろしいですか?」

「わかったわ。」

 報酬をもらえるのなら、とりあえずはいいだろう。



「では、討伐対象が発見当時どのような状況だったか聞きます。そうですね、一応場所を移しましょう。」



 それから奥の部屋へと通され、私はベアがどのように倒されていたのかを話した。それだけの話だったので、数分もしないうちに話は終わる。



「ところで、セキミヤさんはどうかしたのですか?」

「え?何か変かしら?」

「そうですね・・・なんとなく違和感があるだけです。どこか、話についていけないような・・・ま、私たちの言葉が理解できないのでしたら、もっともな反応ですね。」

「そうよ。だから私がいるのだから。」

「・・・そうですか。」

 言われて気づいたが、受付嬢と話していた時に彼と話をした。そのときは、まだアイテムの効果があって、私の言葉を彼は理解していたのだが、私は言語を変えずに彼と話していたのだ。



 まずい。なぜ私は言語を変えなかったのか?普通に考えておかしいだろう。だが、もう遅い。それに、この程度のことを知られても問題はないと思う。







 宿に戻ると、彼はもらった報酬の一部を宿屋の親父さんに渡して、部屋を借りる期間を延長した。もちろん、朝食付きだ。



 部屋に入ると、彼は靴を脱いでベッドの上に胡坐をかいた。



「なぁ、カメリア。カレッジのことだけどさ・・・俺のカレッジ使ったよな?」

「え?」

 今日は何度驚かされるのか。



 私は彼の言葉を聞き、自分がしてしまったことに気づいて凍り付いた。

 どうやら私は、膨大なカレッジを使って、カススキルを習得してしまったようだ。しかも、膨大なカレッジは、彼のもの。つまり、盗みを働いたわけだ。



「ごめんなさい!知らなかったの!いいえ、知らなかったでは許されないわよね、ははっ。」

 うつむいてしまえば、もう彼の顔を見る勇気はなかった。



 なんて、役立たず。自分自身が恥ずかしい。



「私のせいで、スライムを狩ることになったのに・・・私、怒鳴ってしまったわ。しかも、手に入れたスキルは使えないものだったし・・・」

 そう、膨大なカレッジを消費した割に、手に入れたスキルは効果のないもの。もしくは、効果が小さすぎてわからないようなものだ。



「アタックルーズ・・・絶対、攻撃スキルだと思ったのに。」

 攻撃スキルではなさそうだったし、どのような効果があったかもわからない。



 ポイズンルーズでこりたというのに、私は何を期待していたのだろう。



 情けなくて、涙があふれそうになる。でも、決して涙は流さない。

 泣くなんて卑怯よ。



「カメリア、いいよ。」

 優しい声に、許された気持ちになる。でも、許されるわけがない。許すはずがない。どれだけ彼が頑張ってスライムを倒してカレッジを得ていたか、私は知っている。

 たとえ、彼にとって雑魚でも、スライムで得るカレッジが多くても、彼が努力したことに変わりはない。



「俺さ、カレッジで取りたいスキルがなかったんだよ。だって、カレッジで取れるのは、俺のためのスキルばかりだから。」

「そんなの、当たり前じゃないの。あんたが得たもので、あんたが得をするのは当たり前よ。」

「カメリア、俺の目的わかっているか?」

「目的?」

 顔をあげれば、彼は微笑んだ。



「わかってないよな?話したことねーし。」

「話してくれたとしても、わからなかったわよ。」

「俺はね、カメリア。」

 彼が窓の外の方へと目を向ける。夕日の赤が、彼の瞳に映った。



「世界なんて、どうでもいいんだ。人間を助けたいとも思わない。煩わしいだけだ。」

「!」

 その声は、冷たくて、瞳も同じように冷たくて、口元は笑っているのに、その顔は冷たくて、同じ人間なのか疑うほどだった。



「セキミヤ?」

「悪い、話がそれたな。」

 彼はいつもの顔に戻って、苦笑した。



「あーでも、これ言うのやめとくわ。とにかく、気にするなよ。」

「・・・うん。」

 気にするに決まっているが、頷いた。彼の先ほどの顔が頭から離れない。



「そうだ、カメリアのカレッジの板見せてくれよ。どんなものがあるか楽しみだ。」

 彼は青の指輪を私に差し出す。そういえば、なぜカレッジを使ったことを知っているのか?あの時、意識があったのか?彼の胸には矢が突き刺さっていた・・・



「なんで、生きているの?」

 それは、疑問。間違いなくあれは、心臓を射抜いていたはずだ。それなのに、彼はさらに私をかばい、その後にはスライムを倒すほど回復している。





「どうした?もしかして、見せたくないのか?」

「違うわ。」

 私は首を振って、指輪に触れる。

 今は聞く方法がない。聞けそうなときに聞こうと思い、指輪に魔力を流した。





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