【完結】リアルデス 世界を救うより、妖精を育てよう

製作する黒猫

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1 転移はいつも唐突に

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 社会人になって早数年。何か変わるかと思ったが、何も変わらない。ただ、義務だから働いて、休日はずっとパソコンの前にいる。何も変わらない。



 退屈だ。



 学生の頃は良かった。友達とバカ騒ぎして、女子に毛虫でも見るような目で見られるのだって、友達と一緒ならそれもよかった。でも、もう戻れない。







 こんな日常、いらない。一緒にバカ騒ぎしていた友達とも、そりが合わなくなってしまい、今はボッチだ。同時に、周りと価値観の違いが出てしまって、浮いた存在になり、人間関係が面倒になった。

 今は、当たり障りのない、薄っぺらな関係しか持っていない。



 いつかの日を思い出すように、俺はネット小説をあさり、ゲームを遊び尽くして、虚無感に襲われていた。この世界には、何もない。

 小説もゲームも作り物だ。



 現実世界では、イージーモードすぎてつまらない。仮想世界では、全てが作り物で、唐突に虚無感に襲われる。



「責任とれよな、全く。」

 誰に言うでもなく、ぼそりと言った独り言。それに反応したかのように、パソコンの画面が動き出した。



 勝手にネットを開き、検索画面に入力される文字。



「は?え、嘘だろ、ウイルスか?」

 何もできず、パソコンの前であわてる俺だったが、画面からは目を離さなかった。



 勝手に打たれた文字を呟く。



「リアル・・・デス?」

 現実だと主張したいのか?それとも、現実的な死を意味するものなのか?わからないまま、画面が変わる。



 ぶつぶつと怪しげな音をたてるパソコンを心配しながら、真っ暗になった画面を凝視する。



 ぺちゃっと、水っぽい音と共に、赤い文字が浮き上がった。





これは、ゲームではありません



これは、契約です



今の世界に未練のないあなたへ



別の世界へ行きませんか?



剣と魔法のあなたが望む世界へ



そこで、人々を救う仕事をしませんか?





「・・・勇者か?」

 剣と魔法の世界で人々を救う職業と言えば、勇者だろう。人を救いたいという願望はないが、この世界で腐って生きていくよりは、だいぶましに思える。





 命を落としても受け入れられる方のみ、契約に応じてください





 簡潔すぎる説明に呆れたが、どうでもいいことだ。俺は、迷いなく現れた選択肢を選んだ。







 気づけば、白い部屋にいて、俺は半眼になった。



「なんだ、ここで詳しい説明を受けるのか?」

「その通りです。」

 後ろから声をかけられたが、驚きもせず振り返る。そこにいたのは、想像通りの絶世の美女だった。



「ようこそ、リアルデスへ。」

 想像通りの絶世の美女という心の声に反応がないことから、この美女は心が読めないらしい。そうとわかれば、思う存分心の声を呟ける。



「まず聞きたいのだが、リアルデスとは何を指すんだ?」

「あなたがこれから所属する団体名、と思っていただければよろしいですよ。私のことはボスとでも呼んでいただければ。」

 絶世の美女をボスか。なんだろう、いきなり残念臭が美女から漂ってきた。



「わかった、ボス。それで、俺は何をすればいいんだ?魔王を倒して、世界に平和でも取り戻せばいいのか?」

「いいえ。そういったはっきりとした目的はありませんよ。ただ、世界を旅しながら、困っている人に手を差し伸べていただければ、後は自由にしてくださって構いません。」

「は?」

 何それ。



「それでは、説明も終わりましたし」

「え、これで終わりなのか!?」

「はい。何かわからないことでも?」

「・・・その、俺が旅する世界のこととか・・・?」

「あぁ、それでしたら妖精にお聞きください。」

「妖精!?俺、妖精なんて見たことないけど!?」

「では、今からご覧になってください。最初からそのつもりでしたし。」

「そのつもりって・・・」

「説明が終わった後は、好きな妖精を選んでいただき、旅のパートナーとして同行させていただいています。」

「旅の・・・パートナー。」

 白い部屋に来ても、平常運転をしていた心臓が、早く鼓動を打ち始めた。







「こちらです。」

 ボスに連れられて通された部屋は、白を基調としたファンシーな部屋で、少し居心地が悪かった。



「こちらには、妖精の女の子が多く来ています。隣の部屋は男の子がよく来ていますね。行き来は自由ですので、好きな子を選んでくださいね。」

「あ、あぁ。」



 手のひらサイズの、羽をはやした人が、思い思いに過ごしている。寝ている者もいれば、飛ぶ者もいるし、何か作っている者もいる。こちらに無関心な妖精が多いが、逆にこちらを意識しすぎて挙動不審な者までいて、思わず笑った。



「妖精には、それぞれ個性があります。性格・容姿・能力すべてが違いますから、自分に合うと思った妖精を選んでくださいね。」

「そのようだな。ちなみに、おすすめは誰だ?」

「私はあなたについてよく知らないので、能力的に優秀な者くらいしかお勧めできませんね。妖精にも得意分野がありまして、魔法攻撃を得意とし、なおかつ全属性魔法を使える妖精などいかがでしょうか?」

「んー・・・悪い。自分の目で見て決めることにする。」

「それがよろしいでしょう。私はあなたの後をついて歩きますので、何か聞きたいことがあれば遠慮なく聞いてくださいね。妖精は後から交換するというわけにもいきませんから、慎重に選んでください。」

「交換とか発想自体がなかった。交換したがる奴なんているのか?」

 部屋を見回しながら聞くと、ボスは寂しそうな顔をして言った。



「えぇ。でも、それより妖精を必要としない者もいますね。ただのガイド役だとしか思っていないようで、その扱いはひどいものです。」

「・・・それは、まずいと思うけど?だいたい、そんな人間が人を助けたりするのか?」

「そうですね、人としてどうかとは思いますが、働きは悪くないのですよ。なんせ、名誉だとか名声だとかを欲する者が多いですからね。」

「・・・くだらないな。」

 ボスと話をしながら、俺は妖精たちを鑑定していく。



 鑑定をすると、名前や種族などがわかる。たいした能力ではないが、称号持ちだとそれもわかるので、それによってその人物が得意なものがわかったりする。

 ちなみに、ここにいる妖精は、ほぼ称号持ちだ。



「そちらの妖精は、炎魔法が得意です。下級から中級までの魔法を自在に扱えますので、育てれば上級も扱えるようになるでしょう。」

 称号は、炎の申し子。そのまんまだ。

 ちなみに、魔法は下級・中級・上級・最上級まである。普通は中級が扱えれば上等で、上級が一つ扱えれば、宮廷魔術師レベルだそう。人間の基準だが。



 部屋の奥へと進みながら一通り妖精たちを見ていくが、どれもこれも面白くないと思ってしまう。



 俺は、妖精を育てる気でいる。ただのガイド役をさせるよりも楽しそうだし、何よりもその性質が気に入った。



 育てるつもりでいる俺は、ある程度育った妖精に魅力を感じないのだ。育てがいが無いと思ってしまう。



「どれも強そうな妖精ばかりだが、妖精とはみんなこんなものなのか?説明を聞く限り、何の魔法が得意で、何の級までできると言っているが、最初から覚えているのか?」

「いいえ。彼らの強さは、彼らの努力によるものです。あなたのような方のために、日々自分を磨いているのですよ。」

「・・・俺は、一緒に成長していく妖精がいいのだが、そういうのはいないのか?」

「ここにいる妖精たちも、まだまだ育ちますよ?ですが、もっと初々しいのをお望みでしたら、奥へお進みください。入り口に近ければ近いほど、能力のある妖精がいますので、逆に奥に行けば、あなたのお望みの妖精がいるかもしれません。」

「わかった。でも、一つだけいいか。初々しいとか、他に言い方はなかったのか?」

 いかがわしく聞こえるのは、俺だけだろうか?





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