後輩に手柄奪われたからって、能力は変わらないし

製作する黒猫

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6 別に手柄ってわけではないけどさ

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 牧場での依頼最終日。
 昨日と同じように仕事を分担した俺は、セトよりも早く仕事が終わったので、セトに声をかけて手伝うかを聞いた。すると、あと少しで終わるから任せてほしいといわれ待つことにした。


「ご苦労様。これは依頼料と関係ないご褒美ね」

「ありがとうございます、いただきます」


 セトを待つ俺に、依頼主がソフトクリームをふるまってくれた。
 俺はアイス等に興味はないが、牧場で食べれるソフトクリームだけは別で、大好物である。


「牧場で食べるアイスは絶品ですね。働いたかいがあります」

「そうだろう?シール君は、素質があるし、よかったらまた依頼を受けてくれると嬉しいな。定期的に依頼を出しているから、気が向いたらでいいから」

「はい。考えておきます」

「セト君も最初はどうなるかと思ったけど、2日で牧草をあそこまで積めるなんてすごいね。シール君が教えたの?」

「え?」


 何の話だ?
 セトは牧草を積む作業をしていない。

 教えたには教えたが、あまり才能がなさそうだったのですぐに別の仕事を任せた。

 俺は依頼主にそのことを伝えると、依頼主はため息をついた。


「なんだ、セト君は噓をついていたのか。いや、僕の話を聞いていなかったのかもね」

「セトは何を言ったのですか?」

「今みたいに、さっきセト君にアイスをふるまったんだ。その時に少し話をしてね」


 積みあがった牧草の近くで休憩していたセト。それを見た依頼主が勘違いをして、セトをほめたそうだ。


「すごいね。もう牧草を積み上げることができるようになったんだ。なかなか高く詰めているし、すごいよ」

「あ・・・まぁ」


 曖昧な返事に、セトが照れていると思ってにこやかにその場を離れただろう依頼主の顔が、今は悲しそうな顔になっている。


「僕なんて相手にしていられないのかもね。立派な剣士様はさ」

「セトが失礼しました。少し変わっている者で、あまりお気になさらないでください」

「そうすることにするよ。でも、次来るときはシール君一人にお願いしたいよ」

「はは・・・まぁ、セトとはあと少しで関係なくなるので、依頼を受けるときは俺だけだと思いますよ」

「それならいいけどね。それじゃ、またあとで」


 もう一度ソフトクリームのお礼を言って、俺は伸びをした。


「何を考えているのかわからないな」


 セトに聞くのが一番だろうが、わざわざ聞く必要性などないように感じた。


「どうせあと数週間の付き合いだ」


 結論が出ると、ちょうどセトが仕事を終えて笑顔でこちらに向かってきた。


 依頼主にサインをもらって、ギルドへ向かう。


「これを受付に出せばいいですか?」

「そう」

「わかりました」


 俺は帰ると言おうとしたが、その言葉を飲み込む。


「セト、待て」

「はい?」

「アグリーがいる」

「アグリー・・・さん?どなたのことですか?」


 俺がアグリーと呼ぶのは一人の受付嬢だ。
 こいつはすぐに癇癪を起して、特に初心者ハンターにかみつくことが多い受付嬢だ。

 ちなみにアグリーは本名ではなくとあるハンターがつけたあだ名だ。アグリーは棍棒を振り回す、赤い表皮のモンスターの名前で、アグリーさながらの怒りかただからつけられたあだ名だった。


「黒髪で、神経質に髪をまとめた眼鏡の女性だ」


 怒るとあの髪が乱れまくって、幽霊みたいって俺は思うから怖い。


「あれがアグリーさん」

「お前、その名前でアグリーを呼ぶなよ。殺されるぞ」

「え、でもアグリーさんって???」

「誰が自分の子供にモンスターの名前を付けるんだよ、あだ名だ」

「あだ名・・・?2つ名ですか」


「とりあえず、あいつには出すなよ・・・いや、どうせかかわるだろうから、もうアグリーを体験しといたほうがいいかもしれないな」

「よくわかりませんが、アグリーは厄介な人なんですね」

「そうだ。何か言われるだろうが、気にすることはないからな」

「わかりました」


 誰にでもきつい対応だが、セトみたいによくわからない男の対応をしたら秒でキレそうだ。それにセトが耐えられるかもわからないが、耐えなければここのハンターは務まらない。

 嫌でもかかわるしかないのだから。


「では、アグリーにこれを出してきます」

「わかった。愚痴は聞くから、外で待っているぞ」

「絶対何かされるの確定なんですね」

「そういうものだからな。めちゃくちゃ機嫌がよくたって、次の瞬間に不機嫌になることだってあるんだから」

「行くのが躊躇されるのですが」

「まぁ、他に出してもいいぞ。セトに任せる」

「わかりました」


 俺は少し気になったが、外で待つことにした。





「シールさん!あの人頭おかしいですよ!」


 ギルドから急ぎ足で出てきたシールが、大声で俺に話しかけてきた。
 予想していたことだ。この反応ということは、アグリーに依頼完了の報告をしたのだろう。


「紙を投げつけられました。そんなことありえますか!?」

「よくある」

「それで、この依頼は誰が受けたのかって聞いてきて」

「うん」

「よくわからなくて、シールさんに言われてと話したら、シールさんを連れてくるように言われました」

「え?いや、なんで俺の名前出すの。依頼は全部セトが受けたことになっているだろう?」

「え?」

「え?・・・とりあえず行くわ。アグリーを待たせると面倒だし」


 認識の齟齬があったようだが、その確認よりもアグリーを待たせているのが問題だと思って俺は急いでギルドの中に入っていく。

 視線が集まる。

 いつも騒がしいギルド内がボリュームダウンして、ひそひそ声が飛び交っていた。アグリーの標的にならない為か、これ以上アグリーを怒らせない為か。無関係だからこそできる選択だ。

 俺もその無関係の一人になりたかったものだ。

 まっすぐにアグリーの元へと行き、俺は声をかけようとして・・・


「おっ・・・と」


 目の前に紙が投げ捨てられた。


「それ、あなたが達成した依頼です」

「え、あぁ、はい」


 紙を拾って確かめる。
 俺の名前で受けた依頼は、角兎の依頼だけだがそこには「引っ越し手伝い」「犬の散歩」と最近耳にした依頼内容が書かれていた。

 おかしい。この依頼はセトの名前で受けて達成したはずなのに。


「えっと、これはセトが受けた依頼のはずです。俺は教えるために一緒に依頼を達成しましたが、受けたのはセトなので、俺の依頼ではありません」


 セトは依頼を達成したという実績が全くないため、俺はセトに依頼を受けさせて実績を作ろうと思った。だから毎回のようにセトに受付で手続きをしてもらっていたのだが、どういうことだろうか?

 俺の名前で受けていたら、俺の実績になってしまう。別にいらないのに、何でこんなことに。


「あの新人があなたの名前で受けていました。このような行為は現場を混乱させます。慎んでください」

「え、俺の名前で?なんで?」

「・・・」

「あ、すみません。次からは自分の名前で依頼を受けるよう指導します。この3つの依頼は、そのままで結構です」


 セトの依頼にして欲しいとは、怖くて言えなかった。

 それに、どの依頼も難しい依頼ではないのだから、すぐにまた受ければいい話だ。



 それにしても、なんで俺の名前を使ったんだ?

 いや、確認していなかったし、セトに説明をしなかった俺が悪いのか。

 俺に落ち度があるとはわかっていても、なんともやるせない気がした。



「シールさん、どうでしたか?俺、あの人が何言っているのか全く理解できなかったです」


 ギルドを出てすぐにセトが駆け寄ってきて、鼻息を荒くして話しかけてきた。


「何なんですかあの人!頭おかしいんじゃないですか!」

「まぁ、アグリーはそういう者だって。嫌ならあそこのギルドを使わなければいい話だ」

「でも、あんなのパワハラとか、いじめとかそういう括りですよ!」

「そうだな」


「今回の件だが、俺の説明が悪かった。嫌な思いをさせて悪かったな」

「えぇ!?いえ、シールさんは悪くありませんよ!あの人が頭おかしいだけです!」


 だいぶご立腹のようだ。
 気持ちはわかるが、セトはまだここに来て日が浅い。それなのに、ここでの当たり前を非難する姿に少しもやっとする。

 いや、間違っていることを間違っているというのは正しいが、それほどの発言権がセトにあるのか、と思ってしまう。何の実績もないセトに、性格に難はあるが何年もギルドに貢献してきたアグリーを責める権利があるだろうか?

 今回は俺も悪いしな。

 とりあえず、セトには俺の名前で依頼を受けるのではなく、自分の名前で依頼を受けるように言った。


「なんで俺の名前で依頼を受けたんだ?」

「それはシールさんが選んだ依頼なので、シールさんの名前で受けたほうがいいと思ったからです」


 俺は自分の人を育てる能力の足りなさを嘆き、セトの考えが読めなさ過ぎてマスターを恨んだ。




 










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