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49 救世主

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「勇者様、残念ですが、今日から私たちの仲間になってもらいます。」
「まさか、ここまで強引にやるとは、思わなかったわ。」
 メイドに拘束されたまま、私はあきれた声で返した。

「勇者様を奴隷になどと恐れ多いことをしますが、あなたが奴隷だということは公にしないようです。さすがに、そこまでの力はないようですね。」
「・・・私を奴隷にしてどうするつもり?」
「さぁ。それは私たちの仲間になった後、直接お尋ねください。」
 男が迫る。

 確か、奴隷契約は首輪みたいなのをつけて、魔法を発動させるんだっけ。ずいぶん簡単に人を物にできる世の中だな。
 一応抵抗する。力加減を間違えないように慎重に、拘束が外れない程度に抵抗した。

「くっ・・・早くしてください!」
「いや、でも・・・こう暴れられると。俺が抑えていたほうがいいだろう。」
「そうですね。私も手伝います。女性だと思って気を使いすぎたようですね。」
 執事2人が迫り、私の両腕と両足をつかんだ。その感覚に、背筋が凍る。

 外せない拘束じゃない。でも・・・
 クリュエル城で襲われた時のことが、頭によぎった。もう、なんとも思ってないはずだったが、なぜかあの時の光景が浮かんで、血の気が引いた。

 あぁ、だめだ。

「今です。その首輪を勇者にっ!」
「はいっ!」
 動かなくなった私に、メイドが首輪を着けようとする。

 だめだ。

 もう、だめだ。

 顔を青ざめる私の前で、メイドが私に覆いかぶさるようにして倒れた。続いて、2人の執事も倒れる。
 彼らの背後には、上下黒の服を着た、目つきの鋭い男が立っていた。

「大丈夫ですか、勇者。」
「・・・はい。」
 男は、私に覆いかぶさったメイドをどけると、そう声をかけてきた。
 私は、我を忘れそうになった感情を自分の中に隠して、答えた。

 危なかった。

「俺は、プティ様からあなたの警護を仰せつかった者です。無事ならよかった。だが、顔色が悪いです・・・すぐにお戻りになられたほうがいいのでは?」
「・・・こんな顔色で、戻れないよ。はー、まさかこんなことで城のことを思い出すなんて・・・」
「城・・・とは、クリュエル城のことですか?」
「うん。あーそうだ、助けてくれてありがとうございます。正直、もう駄目だと思いました。本当に。」
「気にしないでくれ。さっきも言ったが、プティ様の命令だったからな。当然のことをしたまでです。」
「・・・報告の義務はあると思うけど、今のことなるべく話さないでくれる?」
「男に拘束されて、真っ青になったことですか?普通だと思うが・・・なるべくその話題は避けることにしよう。」
「ありがとう。」
 私はほっと息を吐きだし、倒れこんだ者たちを見た。息はしているので、死んではいないようだ。

「えーと、これからどうすればいいと思う?」
「帰るしかないのでは?顔色も戻ったようだし、俺のことは気にせず魔法を使ってもらっていいですよ。」
「・・・あなたは?そういえば、名前は?」
「呼ぶのに困るようなら、オブルと呼ぶといい。これは、騎士みたいな役職の名前のようなものだがな。」
「わかった。オブル、私を連れてこの屋敷を逃げることはできる?」
「・・・できるが、なぜそんな面倒なことを?ま、考えがあるんだろうが。」
「さっきに独り言聞いてたならわかると思うけど、なるべく魔王側に魔法のことは知られたくないの。相手に知られる情報が少ないほうがいいことはわかるでしょ?」
「いや、そうとも限らない。相手に偏った情報を渡し、本質を見誤せることもできる。だから、時と場合による。」
「・・・そっか。そういう考え方もあるんだ。」
「勇者は一人で考えすぎではないか?少しは人に相談をしたほうがいいと思う。」
「・・・ありがとう。少し考えてみる。」
「そうしてくれ。ん?誰か来る。」
 その言葉通り、部屋がノックされ、メイドが入ってきた。オブルは、扉の陰に隠れている。ちょっと笑いそうだが、彼は真剣だと思うので必死に笑いをかみ殺した。

「・・・勇者様、教会からお出迎えの使者がいらっしゃいました。」
 メイドは部屋の惨状に驚いた様子だったが、すぐに切り替えて用件を伝えた。

「使者?」
「はい。どうぞこちらへ。」
 オブルのほうを見れば、知らないというように首を振った。

 とりあえず、使者に会ってみようと思い、私はメイドに続く。
 案内されたのは、応接室かと思いきや、玄関だった。そのまま扉をくぐると、領主が門からこちらへと歩いてきてるところだった。

「勇者様、明日ももてなしたいと思っていたのですが残念です。」
 声を大きくしてこちらに声をかけた後、すぐ近くに来て小さな声でささやいた。

「とりあえず、あの使者についていってください。奴隷のことは話さぬように、そして、なるべくこの屋敷を訪れたいと、教会に伝えてください。詳しいことはもど・・・え?」
 今更気づいたのだろう、私の首にあざがないことに。
 唖然とする領主を置いて、私は門の前に立つシスターのもとへ歩いた。

 彼女は、どこかで見た。
 ピンクの髪に同じ色の瞳。優し気な笑みは、私を歓迎している。この世界の居場所が、彼女の傍にある気がした。

「勇者様、お待ちしておりました。」
「・・・あなたは、誰?」
 そう尋ねれば、少し悲し気に目を伏せた彼女が答える。彼女の声を聞くたび、なぜか私の心は安らぎを感じた。

「見ての通りシスターです。名は、エロン。」
「エロン。」
「勇者様、あなたのお名前を頂戴してもよろしいですか?」
「・・・サオリ。」
「サオリ様。」
 そう呼ばれた時、悲しみが襲う。突き放されたような感覚に、涙があふれそうになった。

「様なんてつけないで。」
「・・・サオリ?」
 驚いた様子で私の名を呼ぶ彼女。そのほうが自然な気がした。

「うん、エロン。抱きしめていい?」
「・・・それは、後にしましょうか。さぁ、行きましょう。ここは、あなたのいるべき場所ではないわ。」
 そういって、彼女は私の手を取り、歩き出した。


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