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 また、ここへ足を踏み入れることになるとは、思っていませんでした。



 私が来たのは、学園。

 ワイバーンを倒した時、もうこの場所に来ることはないだろうと思っていましたが、あっさりと私は学園に通うことを許され、戻ってきました・・・とは、少し違いますが。



「リリ、どうかした?」

「グレット・・・私、あなたの足かせにはなりませんか?」



 私のすぐそばには、グレットがいます。私は、グレット監視下の元、人間社会で生きることを許されました。

 私が魔物かそれ以外か・・・意見は分かれましたが、結論は不明となりました。しかし、人間ではないと判断はされたので、その処遇について議論されこのような結果になったのです。



 まさに、私が望むような結果。グレットと離れずに済むという、そのまま私の望みを叶えたような結果になりました。

 グレットの言うことは聞くというアピールが効いたのですね!



「足枷ね。」

グレットは周囲に聞こえないよう、私の耳元でひっそりと答えを言いました。



「・・・俺よりも優れた能力を持つお前が足枷になどならん。リリ、足枷とはな、ああいうのを言うんだ。」



ちらりと視線を後方に向けたグレットにならって、私も視線を後ろによこします。



「なんだよ、2人も?」



 そこには兄が、頭に包帯を巻いた兄がいました。

 そういえば、兄は抵抗むなしく牢屋に入れられて、グレットが私のことをごまかしている間、牢の中で気絶していたそうです。

 何とかことをおさめた私たちが迎えに行くと、涙を流して抱き着いてきました。



 無事でよかった。



 涙を流しながら抱き着いてくる兄は、威厳も何もないですが・・・その言葉はとても嬉しいものでした。

 なので、私は自然とほほが緩みます。



「お兄ちゃんの分まで、私はグレットの役に立ちます。だから、これからもお兄ちゃんをよろしくお願いします。」



 グレットより剣の腕は弱く、私よりも秀でた身体能力を持たない兄ですが・・・それでも私の兄です。ドーナルド家の絆は・・・とっても強いらしいので、私リリ・ドーナルドも兄弟の絆を大切にしたいようです。



「仕方がないな。」

「おい、2人で何話してんだ?」

「お兄ちゃんが不甲斐ないことについて話していました。」

「グサっ!ま、マイエンジェル・・・言葉のナイフが鋭すぎるよ。」



 胸に手を当てて、膝から崩れ落ちる兄。

 私たちはそれを見て笑い合って、グレットは兄に手を差し出します。



「ほら、行こう。今日は君のおごりでいいかな?」



 貴族バージョンのグレットが微笑みかけて、兄の表情は固まります。



「お前・・・結構食うんだよな・・・お手柔らかに。」

「そうだね、柔らかい肉が食べたいね・・・」

「一番高いステーキランチをご所望ですか!?」

「私も、お肉がいいです。」

「イエス、マイエンジェル!最高のお肉を用意するぜ!」



 ニカっと笑った兄をグレットは目を細めて見守って、私の腰に手を回した。



「悪いけど、もう君の天使じゃないんだ。リリのすべてが私のものだよ。そうだよね、リリ?」

「・・・グレットがそれを望むなら、私はグレットのものになります。」

「マイエンジェル!?じょ、冗談だよな?」



 慌てる兄に、小首をかしげます。

 何を言っているのでしょうか、私はグレットのそばにいられるのなら何でもします。それに、グレットの望みは叶えたいと思っていますから。



「うおおおおっ!お兄ちゃん、寂しすぎるよ!?ぐあぁ!なんでだ、なんでだグレット!俺のマイシスターでマジ天使が!」



 そういえば、マーレイフィ様との婚約をグレット様は破棄しました。平和な世であるから結ばれた婚約・・・平和でなくなるという兆しが見えて、破棄を検討していたそうですが、ワイバーンの出現で実行に移したそうです。



「リリちゃん、お兄ちゃんと一緒に来よう。こんな大魔神と一緒にいたら、その素直できれいな心が汚されてしまう!」

「何か言ったかい?」

「お前みたいな腹黒に妹はやれねーんだよ!」



 いつものように応接間に案内されたマーレイフィ様。帰り際に見かけた彼女の顔は、悲壮感に漂っていました。グレット様のことが本当に好きだったのでしょうね・・・それか、おうちの人に怒られるからですかね?



 そんなマーレイフィ様を見送っていた私に、グレットは彼女との婚約を破棄したことを聞かせてくれました。まぁ、それだけですけどね。



「役立たずが、何を言っているのかな?君、城の騎士の手から彼女を守ってあげられなかったよね?」

「うぐっ」

「私の手伝いもしてくれなかったよね?一人でよく頑張ったよなぁ・・・」

「それは・・・俺は役に立た・・・くそっ!」



 自分が役に立たないと認めてしまい、兄は再び崩れ落ちて地面に拳を振り下ろしました。



「俺が幸せにしたかったのに!」



 地面を睨みつける兄の肩に、私はそっと手をのせました。



「お兄ちゃん・・・もうすぐチャイムが鳴ります。早く行きましょう。」

「・・・あぁ、うん・・・」

「はい、ハンカチ。あぁ、返さなくてもいいから。」

「ありが・・・って、これ俺のハンカチ!失くしたと思っていたんだが!?」

「落ちてた。」

「言えよ!」

「いう機会がなくって・・・」

「あるだろーが!」



 グレットは兄を一通りからかってから、私の手を取ります。



「行こう。本当に遅刻してしまう。」

「はい。」



 ワイバーンより強く、人間ではないとばれてしまった私が、これからどのような生活を送ることになるのか・・・わかりません。

 ですが、グレットと一緒なら、私はそれでいいのです。



 そのためだったら、私はマギを使うことを厭いません。たとえそれが、リスフィの過ちを繰り返すことになったとしても。





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