32 / 39
32 種が増えただけ
しおりを挟む演劇部の衣装が、私のロッカーで無残な姿となって発見された事件は、特に大事になるごとなく収束しました。学校側からも、簡単な説明があって、ロッカーには常に鍵をかけるようにして、盗難被害を防ぐようにと、全生徒に呼び掛けて終わりました。
担任が衣装を持ち出したというのは、あの場にいた生徒が広めたのでしょう、かなりの噂になっていて、担任に白い目を向ける生徒が増えて、担任は過ごしにくそうにしています。自業自得ですね。
私は、特に何事もなく過ごしています。
グレットや兄とたわいもない話をして、剣術部ではヴィヴィにマネージャーの仕事を教わったり、お茶をしながら話をしたりして。
みんな私のことを心配していますが、私は特に何事もなく過ごしていると、返します。
確かに、私が通るとこそこそと話をされたり、物を隠されたりなどはありますが、事件前にもあったことです。話のタネが増えたにすぎません。
そんな私の耳に、事件の真相が届いたのは、至って何もない日でした。
私は、兄と共に中庭で昼食をとった後、一人でクラスに戻っていました。兄が先生に突然呼び出されて、どうしても私を一人で帰すしかない状況だったのです。
人目につくのが面倒だと感じた私は、なるべく人通りが少ない道を選んで、クラスに戻ることにしました。当然ですね。人とすれ違う度に、好奇の視線にさらされて、ひそひそと何事か話される・・・まぁ、内容は聞こえていますが・・・リスフィなので、人間より耳がいいので。
内容はたいしたことがないもので、泥棒猫、恥知らず、尻軽女、田舎者などと侮蔑の困った名前で私を呼び、やれ婚約者がいるグレット様に色目を使っているだの、演劇部の衣装を盗んで担任のせいにしただの、ルーヴィス先生に色目を使っているだの・・・色目がいくつかあるのです。どれだけ私は色目を使っているのでしょうね?
あぁ、もちろん兄の名前も挙がっていますよ?兄弟というのに、変な話ですね。
まぁ、そんなものが煩わしく感じて、私は人通りの少ない廊下を歩いていました。渡り廊下と呼ばれる、校舎と校舎の間をつなぐ屋根があって壁がない廊下を通っている時です。
外から、か細い悲鳴のようなものが聞こえて、物が落ちる音が聞こえました。
私は何となく耳をそちらに向けました。
「あんただったのね!これ、どうしてくれるのよ!」
「ちが・・・」
「何が違うのよ!あんたが、この衣装をハサミで切っていたっていうのを、目撃した子だっているのよ!言い逃れできると思わないことね。」
衣装・・・はさみで切る・・・
聞き覚えのある単語ですが・・・まぁ、間違いなくあのシンデレラの衣装の話でしょうね。
「私、知らなかったの・・・演劇部の衣装なんて、知らなかったの!」
「知らないで済まされると思うの!?あんたのせいでね、私たちの3か月の練習は無駄になったわ!あの衣装の代わりなんて、数日で用意できるわけもなくって、結局古着を灰で汚したものを使ったわ。」
別にそれでいいのではないでしょうか?劇が中止になったわけでもないのに、何をそんなに怒っているのか、私には理解できませんね。
「どれだけあの衣装が浮いてしまったか・・・あなた、劇は見た?」
「ごめん・・・見てない。」
「・・・あなたも、あの劇を見れば自分がどれだけひどいことをしたか、理解できたはずよ。」
悔しそうにする演劇部らしき生徒。
全く理解できませんが・・・衣装が無残な姿になって、泣いていた人がいるくらいですからね。それほど重要な衣装だったのでしょう。
「ごめん・・・なさい。」
「・・・もう、いいわ。」
「・・・私、知らなかったの。ただ、あの子を・・・雪見会に出られないように・・・しなくちゃって・・・」
「・・・そう。それは、スタードリア様のため?」
「うん。」
「やっぱりね。だとしても、私はあなたを許さないから。話はそれだけよ。」
演劇らしき生徒は立ち去りました。
詰られていた生徒は、そのまま泣き始めてしまったので、もうこれ以上何かを知ることはできないでしょう。
スタードリア・・・グレットの婚約者、マーレイフィ様のことですね。
彼女が命令したわけではないでしょうが、私が雪見会に出られないのは、マーレイフィ様にとって良いことだったのでしょうね。
なぜでしょうか?別に、私がグレット様と踊るわけでもないのに。
「視界にも入れたくないほど、嫌われているのでしょうか?」
だとしても、マーレイフィ様の視界から消えるつもりはありません。だって、あなたの隣にはグレットがいるのですから。
グレットと婚約者でいる限り、あなたの目に映り続けることでしょう。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
※お待たせしました!! アルファポリスさんでも、いよいよ続編の第二章連載開始予定です。
2025年二月後半には開始予定ですが、第一章の主な登場人物紹介を先頭に追加しましたので、
予め思い出しておいていただければうれしいです。
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくという
チートもざまあも無い、ちょいエロ異世界恋愛ファンタジーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(カクヨムではR-15版としてリニューアル掲載中ですので、性的描写が苦手な方や
青少年の方はそちらをどうぞ)
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる