上 下
27 / 39

27 担任

しおりを挟む





 貴族と平民、そこには圧倒的な差がある。しかし、それを理解していないものが多すぎる・・・というのが、リリの担任が常に思っていることだった。



 つまり、平民を物のように見ている、貴族至上主義だ。

 そんな彼が受け持つクラスは、やはりえこひいきがあり、平民は肩身の狭い思いを、常識のない貴族は増長している。常識のある貴族は、冷ややかな視線を担任に送るのみ。



 そんな彼のクラスにやってきたのは、田舎臭い平民臭の漂う一応貴族のリリ。下級貴族と彼が呼ぶ部類に入るドーナルド家。その養子である元平民の娘というのが、彼にとっては下に見る対象として十分な理由だ。



 さらにリリは、婚約者がいるアルソート家の子息をたぶらかしている節があり、現実を教えなくてはならないと彼は息まいた。



 別に、彼に世を正したいという意思はない。ただ、自分の下を作ることで安心し、下をなぶることで顕示欲を満たしている。

 だから、彼がやることはただの嫌がらせ、いじめのようなものだ。



 グレットの婚約者、マーレイフィが自分のクラスでダンスの授業を受けたいと言えば、グレットとペアになれるよう後押しをした。リリというペアがいるにもかかわらず、しかもリリの代わりのペアを探すこともない。無責任だが、悲しみ困る平民をみたいのだ。



 転校してきたばかりのリリに、雪見会について必要最低限の説明もせず、ドレスの貸与があることすら伝えなかった。ドレス貸与についてのプリントも平民の分のみを係の先生から受け取って、リリの分は用意しない。

 本当は、平民の分すらも用意したくなかった彼だが、流石にそこまですると周りの目が気になるところなので、そこだけは用意した。



「平民がドレスなど、分不相応と思わないのか、全く。」



 ちょうど人がいなくなった職員室で、彼はつぶやく。

 そのあとすぐに職員室の扉が開いて、彼はドキリとした。ここは、今の世は平等が当たり前。それに沿わない言葉は咎められる可能性があることは、彼にもわかっている。

 聞かれたか?誰なんだ?



 疑問と共に振り返った彼は、人物を確かめて胸をなでおろした。



「なんだ、ドーナルド妹か。」

「先生、少しいいですか?」

「・・・」



 ほっとしたのもつかの間、彼の内から怒りがわき出てきた。なぜ、このような平民に驚かされなければならないのか?怯えたのが平民相手だと知って、彼の苛立ちがつのる。



「なんだ?」

「実は、ドレスの貸し出しがあると聞いて・・・」



 誰か余計なことを教えたようだ。彼があえて教えなかったことを、この平民に教えた者がいる。イライラとするが、天啓のように面白いことを思いついた彼は、リリとの会話を続けた。



「なんだ、ドレスが用意できなかったのか?」

「あの、もしかしたら間に合わないかもしれないのです。なので、一応借りたいのです。」

「・・・別に貸すのは構わないが、もういいドレスは残っていないだろう。ボロのようなドレスかもしれないが?」

「かまいません。制服で出るよりはいいですから。それに、予備のようなものですし。」

「わかった。ならもってこよう。」



 ここで待つように伝え、彼は口元に嫌らしい笑みを浮かべて、彼が顧問を務める演劇部の部室へと向かった。



 今、演劇部は次の公演のために猛練習をしている。衣装は完成しているが、練習中は着ないので、その衣装でいいだろう。



「シンデレラ・・・灰かぶりのドレスで雪見会、さぞ目立つだろうな。」



 部員達には、当日哀れな平民に衣装を貸したことを伝えればいいか。

 軽い気持ちで、彼はリリに衣装を貸した。リリがそのドレスを何に使うのかも知らずに。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。

黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか

天と地と空間と海

モモん
ファンタジー
 この世界とは違う、もう一つの世界。  そこでは、人間の体内に魔力が存在し、魔法が使われていた。  そんな世界に生まれた真藤 仁は、魔法学校初等部に通う13才。  魔法と科学が混在する世界は、まだ日本列島も統一されておらず、ヤマトにトサが併合され、更にエゾとヒゴとの交渉が進められていた。  そこに干渉するシベリアとコークリをも巻き込んだ、混乱の舞台が幕をあける。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

北国から異世界へこんにちわ

川で日向ぼっこ
ファンタジー
時は真冬。 北国JK愛理が帰り道に吹雪に見舞われる。 普段通る田舎道なのに周りは白、白、白。 と思ったら知らない所にきた!? 何処かも分からず右往左往。 スカートの下にジャージははいていても膝は生足で寒すぎる!!! 運良く街につけば知らない土地、人、物だらけ。 数厳しい現実を目の当たりにし、涙を堪えて乗り切ると 出会えた人達と行動を共にし…? 物作りし、ほのぼのし・・・ 時々実家の農家を思い出し 少しずつ居場所を作っていく。 そんなお話。

処理中です...