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26 ロッカー

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 雪見会当日。

 客側の生徒に用意された更衣室。平民やこんな日でも朝練を行う部活に入っている生徒、雪見会の後で用事があるもの・・・理由はそれぞれあるが、そういう者たちのために一人一つ、客側の人間すべてに用意されたロッカーが、更衣室に置かれている。



 そんな更衣室で談笑している少女2人は、唐突に湧き出た好奇心によって、リリのロッカーの扉を開けて、悲鳴を上げることになった。







「そういえば、あの転校生も客なのよね?」

「客くらいしかできないでしょ。いいえ、客すらできないかもしれないわね。踊れるのかしら?」

「それは大丈夫みたいよ。ダンスの授業で踊っていたみたいだから。」

「なら、ドレスはどうかしら?今の流行りなんてわかっていないんではない?カビの生えそうなドレスでも用意していたら大変ね。」

「そうね。私たちが確認してあげましょうか。私、予備を持ってきてあるの。もし眉を顰めるようなドレスなら、替えてあげましょう。」

「クラスメイトにカビドレスを着ている者がいるなんて、恥ずかしいものね。」



 ロッカーには鍵をかけることができる。しかし、リリのロッカーは鍵が刺さったままで、鍵の意味がない。

 少女の一人があっさりと扉を開けて、もう一人の少女も前かがみになって中をのぞき、悲鳴を上げた。







 リリのロッカーの中には、無残にも引き裂かれた灰色のドレスが入っていた。







「どうやって会に参加するのかしら。」

「もうすぐ会が始まるわ。あんなドレスを用意したのよ、予備もあるはずないわ。」

「予備を買うお金があるなら、あのようなドレスは用意しないでしょうからね。」



 眉をひそめながらも、この状況を楽しむように口元にゆがんだ笑みを浮かべる生徒たち。ロッカーを開けた少女は、どうするべきかと悩んだ。

 自分たちが悲鳴を上げたせいで、この事件が周知されることになってしまった。リリに手助けもしにくい。



 今の学校の風潮で、リリはいじめの標的とされていた。手助けをしたいのなら、嫌味ったらしくするか、周囲に感知されないようにしなければならないのだ。

 しかし、どちらも今回はできそうな状況ではない。リリに自力でドレス問題を解決させたほうが面白いという空気が流れている。



「ちょっと、何の騒ぎ?」



 そこで、ドレスを着た、リリのクラスメイトが現れた。彼女は、グレットのファンクラブのようなものを作った者で、リリに嫌がらせをしているグループのリーダーでもある。彼女は背後に2人取り巻きを引き連れてやってきた。



 騒ぎの中心、リリのロッカーまで、口元に笑みを浮かべて歩く。リリのドレスが破かれているということは知っていて、現場を面白半分に見に来たのだろうと分かる表情だ。だが、その表情がすっと変化した。



「え・・・これ。」

「どうしたの?」

「これ、うちの衣装・・・演劇部の衣装よ!どういうこと!?」



 本気で戸惑うリーダーに、取り巻きは対処を迷わせた。



「明後日は公演なのに!どうすんのよ、これ!一体、誰がやったの!?これ、演劇部の衣装よ、どうしてくれるの!?」

「落ち着いて・・・本当にこれが衣装なの?」

「そうよ。シンデレラの最初の衣装・・・なんでこんなところに。」



 少し落ち着くと出てきたのは疑問だった。

 衣装は、部室で管理されていて、施錠も活動中以外はされている。こんな場所にあるのはおかしかった。



「田舎者が盗んだ?」

「もしかして、復讐とか?」

「いや、着るドレスがなくて、借りるつもりだったとか?」

「このドレスを?いくらなんでも趣味が悪すぎだわ。借りるつもりなら、シンデレラの魔法がかかったドレスにするでしょう。」

「なら、いじめの復讐?」

「ドレスを破いた後に、とんでもないことをしてしまったって気づいたのかもね。それでここに隠した。」

「証拠隠滅もしないなんて、お馬鹿さんね。」



 勝手なことを言う周囲の憶測を聞いて、リーダーの目じりがどんどん吊り上がっていった。爆発する、取り巻きたちが青くなったところで、助けが来た。



「何の騒ぎだ。」



 ここは、女子更衣室だ。そんな更衣室に男性の声が響いた。

 男は、リリのクラスメイトの担任だった。難しい顔をして入ってくる担任だが、内心は楽しくて仕方がないという思いだ。



 恥をかかせてやるだけのつもりだったが、もっと面白くなってきた。





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