17 / 39
17 模擬試合
しおりを挟む無事に武道場の床磨きを終えた私は、ヴィヴィに許しを得て朝練の風景を眺めていました。
「仕事をする意思はあるようね。朝の仕事、今日はこれで終わりにしていいわ。剣術を学ぶのも仕事の内だから、後は朝練を眺めていなさい。」
仕事の内とは言っていますが、ご褒美のつもりなのがよくわかりました。
どうやら、私の床磨きはヴィヴィの納得がいく仕事ぶりだったのでしょう。しっかりと仕事をこなせば、彼女は優しいのだろうと予想ができました。
「マイシスター、マネージャーの仕事はどう?」
「・・・お兄ちゃん、おはようございます。まだ床磨きしかしていませんが、及第点はとれたようです。今は、剣術のことを知るために練習風景を眺めています。」
「練習風景をねぇ・・・認めてもらえたようだね。」
「そのようで良かったです。」
「彼女には苦労を掛けているからな・・・リリちゃんなら問題ないと思うけど、しっかりと仕事をこなして彼女と剣術部を支えてくれ。」
兄はウィンクをすると、私の頭をなでて練習に戻りました。そんな兄に彼が近づいて、彼の言葉に兄は慌てた様子になります。どうかしたのでしょうか?
それから、2人は模擬戦を行うことになったようですが、なぜか兄の体調がすぐれないようです。彼は怖い顔をしています。
「グレット・・・お手柔らかに頼むぜ。」
「真剣勝負だ、ガゼル。」
「それでは、グレット対ガゼルの模擬戦を行います。」
対峙する人の間に、ヴィヴィが審判役として立っています。かっこいいですね、私もいつかやってみたいです。
「それでは、始め!」
ヴィヴィが2人から距離を置いて、開始の合図をすれば、彼は一気に兄との距離を詰めます。彼の手には、木剣と呼ばれる木製の練習用の剣が握られています。刃はありませんが、重さは鉄製の剣と同じにしてあるそうで、人間には重いはずです。
そんな重さなど感じない動きで、彼は兄と距離を詰めて斬りかかりました。兄も木剣の重さを感じない動きで、木剣を彼の木剣に当て勢いをそいだ後に後退します。
人間でも早く動けるのですね。
これが、戦いというものですか。いつもゆったりとした動きの人間も、戦いでは素早い動きを見せることを知りました。
兄は、彼に詰め寄って木剣を振りますが、それは空振りします。その空振りした勢いのまま彼の背後へと周って、彼の背後に斬りかかりました。
彼は前転をしてそれを回避し、そんな彼を兄は再び距離を詰めて斬りかかりますが、彼も同じように距離を詰めて、木剣の柄を兄の脇腹に叩き込みました。
兄の口から苦しげな声が漏れます。彼は眉をしかめました。同じようにヴィヴィの表情も変わります。
「っ・・・降参だっ!」
「・・・勝負あり!勝者、グレット!」
兄が負けを認め、審判が勝者の名を口にします。模擬戦が終わりました。
あっさりと決着がつきましたね。もっと時間のかかるものと思っていましたが・・・実力差がありすぎたのかもしれません・・・なんて、思っているようですね彼とヴィヴィ以外の人間たちは。
勝者のグレットに人が集まる中、私は兄のもとに行きます。兄にタオルを渡して、私は小さな声で聞きました。
「お兄ちゃん、なんで本気を出さないのですか?」
「・・・!さすがはマイシスター、よくわかったな。褒めてあげたいが、それは誰にも言っちゃだめだぞ?」
兄は、私の頭をなでるためでしょう、私の頭に手を伸ばします。ですが、その手は誰かに捕まれました。
「ガゼル、大丈夫かい?」
「マジで痛いんだけど、ご主人様。」
「悪かったよ。」
そのまま彼は兄の手を引いて、兄を立ち上がらせます。
「ごめんね、イラついちゃって。」
「・・・お前、ホント怖いよその顔。リリちゃんも引いているぞ。」
「いえ。私は特になんとも。グレットもお兄ちゃんもすごいですね!重い木剣を持ちながらあれだけ速く動けるなんて、すごいです!」
「ありがとう。」
「かわいいなぁ、マイシスター。」
それから、兄の方にも人だかりができて、人間たちが称賛の声を上げました。私は邪魔にならないように2人から離れて、ヴィヴィのもとに行きます。
「かっこよかったです!」
「・・・グレット様のこと?」
「いいえ、ヴィヴィがです!」
「!・・・変わっているわね、あんた。剣術のルールを覚えたら、いつかあんたもやるのよ、審判。」
「はい!頑張って覚えます。」
ヴィヴィは、最初壁を作っているように思えましたが、その壁が少しだけ薄くなったような気がします。それがちょっとだけ嬉しいです。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
※お待たせしました!! アルファポリスさんでも、いよいよ続編の第二章連載開始予定です。
2025年二月後半には開始予定ですが、第一章の主な登場人物紹介を先頭に追加しましたので、
予め思い出しておいていただければうれしいです。
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくという
チートもざまあも無い、ちょいエロ異世界恋愛ファンタジーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(カクヨムではR-15版としてリニューアル掲載中ですので、性的描写が苦手な方や
青少年の方はそちらをどうぞ)
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる