悪魔勇者

製作する黒猫

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3 狂信者を作り

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 スラム育ちの少年は、数日前まで使ったこともない剣を振っている。雑な扱いしかまだできないが、それでも弱い魔物倒すことはできるようになった。

 勇者に拾われたスラム育ちの者たちは、5人一組になって弱い魔物に立ち向かう。その中の一組に少年も入っている。



 5人が徐々に追い詰めたゴブリンは、もうすでに虫の息。それを、少年が剣を叩きつけるようにして振い、絶命させた。



「やった。勇者様!僕たちやりました!」



 笑顔で勇者のもとまで駆ける。それに気づいた勇者は、微笑みを浮かべて彼らを出迎えた。



「怪我はないかい?」

「はい!勇者様、僕たち魔物を倒すことができました!」

「そうか、よかったね。」

「はい!これで、勇者様のお役に立てますか?」

「そんなことしなくたって、君たちは世界の役に立つんだ。それは、僕の役に立つと同義だよ。無理はしなくていいからね。」

「無理じゃありません!僕、勇者様のためだったら何でもします!」



 人間らしい生活・・・綺麗な衣服、満腹になれる食事を提供してくれた勇者に、スラムから付いてきた者たちは絶対の忠誠を誓った。だから、勇者のためになることなら進んでやりたがるのだ。



「僕、あの日助けてもらえなかったら、勇者様に出会っていなければきっと死んでいました。それくらい、ご飯にありつけなかったんです。だから、この命は勇者様に捧げます!」



 少年の嘘偽りのない言葉に、一瞬驚いた様子の勇者だったが、すぐに微笑んで少年の頭をなでた。



「ありがとう。」

「はい!」



 喜ぶ少年の顔を見て、勇者はその瞳に悲しみの色を浮かべた。それを見ていたのは神官ただ一人で、その神官は恍惚の表情を浮かべる。



「勇者様・・・あなたという人は・・・」



 少年が放った、勇者に命を捧げるという言葉。勇者の脳裏には、勇者をかばって死ぬ少年の姿が浮かび、それを思って悲しんだのだと神官は解釈する。



「誰にでも分け隔てなく接するあなた様は、やはり素晴らしい。」

「神官、ちょっといいか。」



 浸る神官に声をかけたのは、騎士の男だった。

 神官は若干眉をひそめながらも、騎士に顔を向ける。



「なんでしょうか?」

「このままだと、金が足りなくなる。」

「・・・・・」



 町や村を周って、貧しい人々を吸収して大きくなった勇者一行は、総勢300名を超える。今まで金の問題が出てこないだけ、城から必要経費はもらっていたがそれも限界のようだ。



「今の人数なら、何とか持つ。だが、これ以上増やされると流石に金が足りない。勇者に相談するべきだろう。」

「・・・その必要はありません。」

「しかし!このままでは・・・」



 次の町にも立ち寄る予定だ。そこにも貧しい者はいるだろう。勇者は貧しい者がいれば、また救いの手を伸ばす。止めなければ、勇者に相談しなければならないのは明らかだ。



「勇者様の御心を乱すわけにはいきません。救えない苦しみをあの方に味わっていただくなど、ありえない。」

「だが、そうするのだ?金のあてでもあるのか?」

「あてはありますが、流石にこれ以上の人間が増えると統率も危うくなります。」

「なら、ますます勇者に言うべきじゃないか。」

「・・・」



 焦る騎士に、神官はぞっとするような笑みを向けた。



「ようは、救う相手がいなければいいのです。」

「は?」







 次の町に着いた勇者は、そこで大量の死体を目にした。

 たまらず眉を顰める勇者に、神官は悲し気な表情で勇者を見つめた。



「流行り病のようです。どうか、お近づきになりませんように。」

「・・・わかったよ。ここで祈りをささげることとしよう。」



 その場に跪いて祈りを捧げる勇者に続いて、スラム出身の者たちもたどたどしく祈りを捧げる。もちろん、神官も同様に祈りを捧げている。



 周囲を警戒するために祈りに参加しなかった騎士の男は、青ざめた顔で神官の背中を見る。彼には、神官が流行り病に見せかけて貧しい者を殺したようにしか見えなかった。



「狂信者・・・」

「どうかしたの?」

「いや、なんでもない。」



 女騎士に不思議がられたが、結局彼は何も話さなかった。







 それから3日ほど流行り病の死体を見て、そのたびに勇者は祈りをささげた。そのとき、ポツリとこぼした言葉を神官は拾う。



「君たちの犠牲は無駄じゃない。」



 犠牲・・・流行り病の犠牲という意味とは思えず、神官は頭を巡らした。すると、勇者が城で行った粛清を思い出した。



 悪意を減らさなければならない。人の悪意が多ければ、祝福の力は減少する。それはつまり、勇者が弱くなるということ。



 そして、貧しいものたちは、そのほとんどが罪に手を染めていた。それは、人の悪意だ。



 あぁ・・・間違っていなかったのですね。



 神官は、自らの血に染まった手を眺めた。実際にはその手に血の一滴も付着していないが、人を殺したその手は血に汚れているように神官には見えた。



 もっと、この手を汚さなければ。勇者様のために。



「悪意を、減らさなければなりませんね。もっと。」



 神官の呟きを聞いて、勇者は神官に微笑みかけた。



「そうだね。全ての悪意を消せば、きっと人は・・・幸せになれる。生きられるんだ、理不尽な死の恐怖に苦しめられることなくね。」

「わかりました、勇者様。私のやるべきことが見つかった・・・」



 たとえ、人に理解されなくても、勇者様が理解してくださるなら。

人類を救うために、勇者様のために、私は手を汚し続けましょう。





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