三題噺を毎日投稿 3rd Season

ピン芸人・トラウマ・走馬灯

　ピン芸人なってしばらくの時間が過ぎた。養成所時代はトリオで始まり、卒業するころにはコンビ。芸歴を重ね、徐々に知られ始めた頃にはピンになっていた。

　色々あった。短い文章で説明できるものではない。自分たちが天下をとることを考えたときだってある。あのころは全員が有頂天で怖いものなんてなかった。自分たち以外のすべてが面白くないと思っていたし、自分たちこそがすべてだと勘違いしていた。

　それが原因で仲間内の空気が悪くなり、悪くなれば仕事も減った。自分たちの魅力を勘違いしていたのだ。バチバチしていればその魅力は薄れていくなんて想像もしなかった。

　一回崩れたものは戻ることはない。ズルズルと落ちるところまで落ちていった。その頃のことは思い出したくもない。トラウマでしかないのだ。でもその時間が必要だったのだと。今はそう思えるようになっている。

　すべては時間が解決したことだ。ピンになっても人気になれた理由を何度も聞かれたけれど、特に答えられることがなくて何度も困った。それも今はいい思い出かもしれない。

　走馬灯を見ているようだ。長い長い時間を繰り返し見ているようだった。人間死ぬ瞬間というのは本当にこんな景色を見れるのだな。

　思い出したくないこともあるが、それも含めての人生だったと言えるのは幸せだったりもするのだろうよ。

　トリオのときの他のふたりを思い出す。元気でいるだろうか。ふたりとも芸人を辞めてしまった幸せに生きていると言うのは聞いたが、実際に会って聞いていないと言うのが後悔が残るところ。

　コンビのときの相方はどうしているだろうか。色々あって仲違いしてしまったが、芸人は続けていると聞いた。けれど、有名にはなれなかったし一緒に仕事をしたこともなかった。

　後悔してばかりの人生だったのだな。周りからは成功者に見えるのが不思議なくらいだ。

　もう目を開けられそうにないな。それはけっして悪い気はしなかった。