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パスカル・悪代官・反復横飛び
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「はっ。はっ。はっ。はっ」
悪代官みたいな笑い方が室内に響く。注文どおりの笑い方に発注した側が驚いている。まさに悪代官がそこにいる。大きな身体に突き出したお腹。普段から運動をしないことを体現しているその姿に全員が視線を送っている。
「……次のセリフなんでしたっけ?」
笑い終わったあとに悪代官みたいなおじさんは困った様子でそう続けた。なんだこの落差は。その展開についていくことがだれもできない。さきほどもそうだった。悪代官みたいに笑ってください。たしかにそう指示をした。指示しなくちゃいけなかったのはあまりにも棒読みな笑い方だったからだ。
それまでのセリフは完璧とは言えないものの上出来と言ったところだった。でも笑い方だけがどうにも気になってシーンを止めたのに。笑い方が完璧になった途端、他のセリフが飛んだ。
まるで反復横飛びみたいな人だ。どっちかにしか寄れない人。そんな印象をこの短い時間で与えてくる。さっきまで出来ていたことが全くできなくなって。代わりに出来なかったものが出来るようになった。振れ幅がすごい。すごすぎる。
「次も期待してますよ。社長……です」
短いセリフだ。忘れるようなタイミングでもない。
「ああ。でした。でした。そうでした。もう一度お願いします」
その言葉で仕切り直しが始まる。時間を巻き戻すようにセットを元に戻していく。周りのキャストも準備を整えシーンの始めから取り直しだ。
「はっ。はっ。はっ。はっ」
そのセリフに全員がまた固まった。けれど、それは先ほど違う理由。悪代官がどこかへ行ってしまった。まるでパスカルみたいだ。そうつぶやいたら、それってラスカルですよと突っ込まれた。
悪代官がいなくなってしまった現場に訪れる戸惑い。きっとどっちを取るのか悩んでいるのだ。この感じだと反復横飛びを繰り返すことになりそうなのだ。そりゃ悩む。どっちもできたりしないのかい? と問いかけたいが問いかけた結果どちらも失ってしまいそうな危うさもある。
どっちをとってもどっちもどっちだ。悩みどころではある。
「悪代官みたいに笑っててください。ずっとです。それで行きましょう」
セリフは言わなくもいい。そういう決断だった。ずっと笑ってれば画《え》になるってことか。
まったくいい身分だよ。
「はっ。はっ。はっ。はっ」
そう室内に響き渡るのをただ聞いていた。
悪代官みたいな笑い方が室内に響く。注文どおりの笑い方に発注した側が驚いている。まさに悪代官がそこにいる。大きな身体に突き出したお腹。普段から運動をしないことを体現しているその姿に全員が視線を送っている。
「……次のセリフなんでしたっけ?」
笑い終わったあとに悪代官みたいなおじさんは困った様子でそう続けた。なんだこの落差は。その展開についていくことがだれもできない。さきほどもそうだった。悪代官みたいに笑ってください。たしかにそう指示をした。指示しなくちゃいけなかったのはあまりにも棒読みな笑い方だったからだ。
それまでのセリフは完璧とは言えないものの上出来と言ったところだった。でも笑い方だけがどうにも気になってシーンを止めたのに。笑い方が完璧になった途端、他のセリフが飛んだ。
まるで反復横飛びみたいな人だ。どっちかにしか寄れない人。そんな印象をこの短い時間で与えてくる。さっきまで出来ていたことが全くできなくなって。代わりに出来なかったものが出来るようになった。振れ幅がすごい。すごすぎる。
「次も期待してますよ。社長……です」
短いセリフだ。忘れるようなタイミングでもない。
「ああ。でした。でした。そうでした。もう一度お願いします」
その言葉で仕切り直しが始まる。時間を巻き戻すようにセットを元に戻していく。周りのキャストも準備を整えシーンの始めから取り直しだ。
「はっ。はっ。はっ。はっ」
そのセリフに全員がまた固まった。けれど、それは先ほど違う理由。悪代官がどこかへ行ってしまった。まるでパスカルみたいだ。そうつぶやいたら、それってラスカルですよと突っ込まれた。
悪代官がいなくなってしまった現場に訪れる戸惑い。きっとどっちを取るのか悩んでいるのだ。この感じだと反復横飛びを繰り返すことになりそうなのだ。そりゃ悩む。どっちもできたりしないのかい? と問いかけたいが問いかけた結果どちらも失ってしまいそうな危うさもある。
どっちをとってもどっちもどっちだ。悩みどころではある。
「悪代官みたいに笑っててください。ずっとです。それで行きましょう」
セリフは言わなくもいい。そういう決断だった。ずっと笑ってれば画《え》になるってことか。
まったくいい身分だよ。
「はっ。はっ。はっ。はっ」
そう室内に響き渡るのをただ聞いていた。
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