三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

文字の大きさ
上 下
130 / 145

コンセプト・5階・金塊

しおりを挟む
 コンセプトとしてどうかと思う。初めてお店の存在を知ったときにそう感じていたはずなのに。

 気がつけば毎日のように足を運んでしまうのはなんでだろうか。

 ここでしか味わいない体験があるのは確かだ。けど、それが中毒性があるものにも、自分に必要なものとも思っていない。だけれど、もはや手慣れてしまった入口への訪れ方。一見するとそのビルの入口はひとつしかない。けれど、そこから入ってしまうと目的地にたどり着くことはできない。

 目的のお店は五階。けれど、真正面から入れるエレベーターに乗るとその理由を察することができる。

 七つあるボタンを一つずつ見ていくと、一、二、三、四、六、七、八とある。と五だけないのだ。どうしてこんな構造になっているのか最初は分からなかった。五階に行くには階段でしか行けない。そんなめんどくさいことをさせているのは、一見さんをお断りしているのだ。そのためだけにエレベーターが止まる階層をひとつ飛ばすような真似までしている。もしもお店が出ていってしまい、次の契約者を探すときにどうするつもりなのだと思わずにはいられない。

 そもそも、どんな意図であの五階が生まれたのかも知る由もない。そしてそのことが自分になんの関係があるかと自問したところでなんの関係もない。単なる客のひとりだ。多少不便なくらい文句も言えない。文句があるなら店に来なくていい。そう言われるだけだ。

 建物に入ることをせずに外階段に向かう。吹きさらしの階段の手すりはちょっと心もとない。これも店への忠誠心を試されているのかと穿った見方もしてしまう。それくらいに魅力的なものがこの先に待っているのだ。

 五階まで登ると多少なりとも息が上がる。そうして苦労してたどり着いた場所に心躍り始める。

 扉を開ける。まばゆいばかりの光が目に飛び込んでくる。

 店内に積み上げられた金塊が心を跳ね上げる。

 これを作り出すためだけにここに来ている。たとえ見せかけだけだとしても。金塊を手に入れるチャンスを得られるのはここだけだ。

 今日こそは勝つ。そう覚悟を決める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...