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行燈・一輪挿し・ギャンブラー

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 行燈《あんどん》から漏れでる光は、まろやかになり包むようにしてこちらまで届く。淡い光なんて言葉が似合う雰囲気の中。畳の上でこの場の全員が真剣な眼差しを向けている先は赤と黒が並んだマット。そのマットの上には大量のチップが置かれている。

 置かれている場所には数字が書かれている。

 そして着物に身を包んだ女性の一挙手一投足に集中する。若い女性だ。おそらくここの運営に雇われたのだろうが、それだけで十分の実力であることはうかがえる。実際、これだけの人に囲まれれば普通はたじろいだりもするだろうけれど、どうどうとしている。

 そして右手を構えると。勢いをつけてその右手の中に潜ませておいた金属のボールを勢いよく回転するルーレットへと投げ込んだ。その瞬間だれもが息を呑むのが分かる。全員でそのボールの行方を見守る。

 先輩ってギャンブル好きでしたよね?

 会社の後輩からの突然の誘いの切り出しはそんな一言だった。たしかにそんなような話しをしたことがある。でもそれはちょっと話の趣旨がズレて認識されている。ギャンブル自体が好きってわけじゃない。行動の指針としてギャンブル寄りの思考をしてしまうと言うだけだ。

 分の悪い賭けが嫌いじゃない。人生の選択もそんな風に決めて来た。受験も、就職も。周りなら選択しないようなところを選んだ。ちいさいところで言えば昼食の店選びだってあえてレビューが低い方を選んだりもする。それはちょっとしたスリルを味わいってだけだ。

 それがまさか、本当のギャンブルをすることになろうとは。

 こんなに赤と黒を意識したことは人生でない。赤いか黒いかだけで人生が変わってしまうと感じるのも初めてだ。

 ルーレットをやったことなんてない。賭け方すらも知らなくて恥ずかしながら後輩へ聞いた。色々考えた結果最初は、手堅く色だけで賭けようとしたら、後輩に少し笑われたのだ。

 全然ギャンブル好きって感じじゃないですね。

 イラッとして手持ちのチップをすべて賭けたとき、周りがざわついた。そりゃそうだ。あり得ない金額。なんなら全財産だ。これまで積んできたものをすべて失うつもりの賭け。

 赤。

 その色に賭けたのは単なるゲン担ぎ。まるで一輪挿しのように髪の毛に刺さっているかんざしがディラーである女性が入ってきたときから目立っていたのだ。行燈の明かりに照らされ、ひときわ目立つ赤い色をしている。

 それを見たときから最初は赤に賭けようと決めていた。

 赤よこい、赤。赤しかないだろ。50%の確率で当たるのだ。増え額は少ないけれど、同時に十分な額でもある。しかし外せば真っ逆さま。決して分の悪い賭けではない。けれど賭けているものが大きすぎて釣り合っていない。

 だからこれは分の悪い賭け。

 俺は生粋のギャンブラーなのだ。それを見せつけるように後輩に視線を送るが、後輩の視線はボールの行方に釘付け。

 ボールが止まる寸前だったのだ。慌ててルーレットへと視線を戻す。

 赤か黒か。

 最期。悲鳴のような叫び声を聞いた。

 それが誰のものだっのか。覚えていない。薄暗い空間からはっきりとした光を浴びる場所をへと出たとき。自分がまるで生まれ変わったみたいに思えた。
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