三題噺を毎日投稿 3rd Season

第三の目・アノマロカリス・セブンティーン

　アノマノカリスを眺めている。海中をゆったりと漂うその姿を見ているだけで癒やされる。食事の様子なんかはまだ見れないのだと係の人が言っていた。

　まだまだデータを作成途中でそこまで再現はできていないのだと。少しだけ残念そうに言っていた。だいたいアノマノカリスが生きていたのはずいぶんと昔の話だ。約5億年前の存在をこうやって擬似的にも見られるなんて贅沢な話だと思う。

　ほんと、簡単なタイムトラベルだ。

　拡張空間に浮かんだアノマノカリスを見るために渡されたゴーグルが思っていた以上に大きくて、驚いたけど。それは着けるまでの話しだ。着けてからはそこから見える世界に酔いしれた。

　まるで第三の目を手に入れたみたいだと思った。

　地上にいるはずなのに辺りには水が満ちている。その中を再現されたカンブリア紀を生きていた生物たちが泳いでいる。まるで夢のような世界。

　いつまでだって見てられる。そう思っていたら、突然、その世界が消え失せる。まるで泡が弾けてしまったみたいにだ。

「なにかありました？」

　ゴーグルを外す必要はない。現実の空間に上にバーチャル空間を重ねているだけなので、そのまま係の人がいる方を見る。

「ええ。お時間ですので。映像を消させていただきました」
「えっ。もうそんなに時間が経ったのです？　あっという間だったなぁ」

　そこで初めてゴーグルを外す。都会のビルのオフィスの一室。窓から見える景色はビルばかり。そこを泳いでいる映像は理想にも近いほど完璧だった。

「ええ。そうでしょうとも。だからこそ、セブンティーンまでは制限時間を設けさせていただいてますので」
「もう少しで誕生日なので。そこからが楽しみです」
「もっと素晴らしい世界を堪能できることでしょう。またお待ちしておりますね」

　係の人に見送られてフロアのエレベータまでたどり着く。

「では、失礼します」

　それが最後になるだなんて思いもしていなかった。映像を作成している会社は倒産。二度と見れない。そんなことにはさせない。せっかくエイティーンになったのに。そんなことは許されない。絶対にあのプロジェクトを復活させる。そう胸の奥に誓った。