三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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トカゲ・三面鏡・馬の骨のお面

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「えっ。なにこれ。馬の骨のお面?」

 彼氏の家に初めて訪れるなり見事に驚いてしまい口にしてしまった。いや、だって1LDKの部屋の入口にあるものではない。

「ねえ。これって本物なの?」

 驚いたことすら気にもしないで部屋の奥へと進んでいってしまって、慌てて引き止める。

「えっ。ああ。本物だよ。それがどうかしたの?」

 ひとりで驚いている自分がおかしいのかと思うほどあっさりした返事だ。訪れた人たちは全員同じ反応をするんじゃないかと思うのだが、違うのだろうか。

「どうかしたって。なんでこんなの飾ってあるのよ。普通じゃないって」
「なんだよ普通って。自分の常識を押し付けんなよ」

 ちょっと不機嫌になっている辺りが意味が分からない。不安になりながらも慌ててあとを追う。

「ねえってば。どういうことなのって」

 リビングに足を踏み入れた瞬間再び、驚いて身体が硬直してしまった。

 部屋中が民族的なもので飾り付けされており、異様な空間が広がっていたのだ。その中でも目に飛び込んできたのは大きな三面鏡だ。鏡自体はそんなに驚きはしないが、その前に置いてあるものが問題だった。

 大きな木彫りの人形。それを民族的なものを感じる。東南アジアの島とかにありそうな造形をしている。それが三面に映し出されて儀式でもしているかのような光景。

「えっ。何この部屋」

 思わず本音が口から飛び出た。聞かれでもしたらもっと機嫌を損ねかねない。おそるおそる、彼の様子を伺うけれど、気にしていない様子だったのでホッとする。

「ねえ。これって趣味なの?」

 止まらない好奇心はその質問をしてしまう。

「ああ。趣味っていうか、産まれてからずっとこんな感じだからさ。こうじゃないと落ち着かないんだよね」

 え。そうなんだ。そうとりあえず頷くことしか出来ない。ちょっと付き合ったこっとを後悔し始める。

 別れようかな。そう考え始める。

「どうしたんだよ。とりあえずそこ座れよ」

 そこ? 彼は椅子に座ったけど他に座る場所なんてない。

「そこってどこ?」
「そのトカゲだよ。クッション代わりにつかえるからさ」

 トカゲ? とっさに想像したのは可愛らしいぬいぐるみ型のクッション。けれど……。彼が指さしたのはオオトカゲの剥製。はっきりとその皮の感触も残ってそうなそれに座れというのだ。

「うん。とりあえず別れよ。ちょっと私は選択を間違ったみたい。じゃね」
「おいっ。とりあえずってなんだよ。俺が何したって言うんだよ」
「うん。それが分かったら、また声かけてね。じゃ」

 馬の骨のお面にもう一度驚きながら、彼の家を慌てて立ち去った。

 とりあえずで付き合うのはもうやめよう。そう決意していた。
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