三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

文字の大きさ
上 下
122 / 145

冬の虫・バスルーム・七段

しおりを挟む
 バスルームは湿気で曇っている。外気とまじりあうことで蒸気になったものが埋め尽くしているのだ。

 もう暦上は春だと言うのに突然に下がった気温にたまらず湯船に湯を張った。その結果がこれだ。悪くない感じに仕上がっている。身体を温める準備はバッチリ整っている。

 ふと、窓の外が気になって視線を送る。外で何かが動いている。最初は雪でも降り出したのかと思ったが天気予報でそんなことは言っていなかったし、空も曇ってはいるものの雪がふるほど、どんよりとはしていない。

 冬の虫だ。雪虫と呼ばれることが多いその虫が飛んでいる。明らかに時期はずだ。冬の訪れとともに飛んでいることが多い。なにかの異常事態か。虫の知らせとはよく言ったものだ。

 とはいえ、気にし過ぎることでもないと思い直し、入浴の準備をする。

 七段ある洋服ダンスを買ってくれたのは祖父だった。それと冬の虫のふたつがリンクして記憶が呼び起こさせる。

 雪虫のことを冬の虫と呼んでいたのは祖父だった。なんだか冬の虫のことを気にしている祖父だったと今となってみればそう思う。他にそんなに気にしている人をみたことはない。

 冬が好きだったのかなと服を脱ぎながらぼんやりとそんなことを考える。農家だった祖父は冬はゆったりとした生活をしていた。忙しい時期に訪れたことは少なく、冬の祖父しか記憶に残っていないだけかもしれないが、冬の空を眺める祖父はどこか印象的だった。

 どうしてこんなことを思い出しているのだろう。そう思っているうちに、命日だ。突然に思い出した。

 お風呂に入って、身体を温めたら、久しぶりにお墓に行こう。

 湯気に満ちたバスルーム。季節外れの冬の虫。祖父がたまには顔を出せと、そう言っているように思えて。温まりながら心のなかで軽く謝った。

 ちゃんといくから。まっててな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...