三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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スマホ・デート・転職

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「もういいっ!」

 言ってからすぐに後悔する。そんなつもりじゃない。びっくりして口から言葉が飛び出てしまった。イライラしてるわけじゃない。当然怒ってなんていない。言い訳がぐるぐると頭の中を駆け巡るのに言葉にはならないで。あ、とか。えと。とか。文章にもならない文字だけが発声されては彼の表情を曇らせていく。

「なにがもういいんだよ。俺はお前のことを心配して……」

 こちらの言い訳が言葉になる前に彼の方から切り出されてしまった。そうなってしまってはもう先程の言葉が想いと違うと訂正できない。

 心配してくれているのは分かる。自分でも無理をし過ぎているのも分かる。無理が原因でイライラが増えているのも。彼とすれ違い続けているのも自業自得。だから、そんな自分のことを心配してくれなくてもいいと。今だけはそんなことを忘れさせて欲しいと。そう思っただけなのだ。

だって久しぶりのデートだって言うのに、彼は心配ばかりしているのだ。転職を勧めてきたり、上長へ掛け合ったほうがいいとか、労基へ駆け込んだほうがいいとか。そんなつまらない話しばかりするのだ。

 久しぶりの休日。せっかく忘れられると思って。デートを楽しみにしていたのに。あまりにしつこいからつい、大きな声を出してしまった。

「……いいの」

 そう、離れてしまった彼の手を再び手に取る。まるで包み込むようにしたその手を彼は握り返してくれる。

 やっぱり安心する。彼は私のことを気にしてくれている。心配してくれている。そのために苦しんでしまっている。そんな価値もないのに。

「ね。行こっ」

 きっかけとなったスマホが未だにけたたましく震えているのを無視して彼に精一杯。微笑みかける。

 彼は出なくていいのか。と決まりが悪そうに心配してくれる。いいんだ。デート中に出ようとした私がいけない。きっと明日、怒られるだろうけれど。今日くらいはそんなこと気にしたくない。

「今日ははなさないでいてね」
「えっと?」

 彼は不思議そうな顔をしながらも頷いてくれた。
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