三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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昆虫食・マクロ・自慢

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「ね。これ食べてみてよ」

 妹が差し出してきた皿に乗っていたものを認識したくなくて頭の中が真っ白になったのが分かった。

「なんだよこれ」

 受け入れたくなくて質問してみたけどそれが間違いだったとすぐに気がつく。質問に答えられてしまったらこれがなんなのか確定してしまうではないのか。それが俺の精神衛生上良い方向に働くとは考えにくい。

「昆虫食よ」

 やっぱりそうだよな。自分の中で否定し続けたものが崩れ去っていくのが分かる。節がある足が確かに伸びている。たとえ衣に包んだところでそれは多い隠せるものではない。

「どうしたんだよ。これ」

 妹は淀むことなく、スラスラと口から昆虫食の説明が始まった。

「学校の授業の一環でね。SDGsのことを考えようって話になって。色々調べているうちに手っ取り早いのが昆虫食って通販で買ったんだ。それを使って学校でみんなに振る舞ったりしたら、段々と評判が良くなってさ。しまいには先生とか教育委員会の偉い人とかにまで届いて喜んでもらえたんだけど。なんか調子乗って大量に買い続けたらみんな飽きちゃったみたいで。たくさんあまっちゃったんだよね。だから、食べてもらおうと思って」

 評判が良かった? このグロテスクな見た目をしてるやつがか? マクロの視点からみたら食べている存在は多いだろうけど。ミクロな視点しか持ち合わせていない俺からすればとてもじゃないが食べものには見えない。

「ほら。おいしいよ」

 そう言うものの、口にしない妹におや? と疑問が浮かぶ。

「お前は食べないのか?」
「えっ?あ、うん。私はもうたくさん食べたからさ。大丈夫なんだ」

 ほう。それってほんとうだろうか。もしかして食べたくないだけなんじゃないか。

「いや、お前が食べたら俺も食べるよ。なんだか、ちょっと先に食べるのは抵抗あるっていうか。一旦食べてるところみたいなって」

 苦しい言い訳だけど、おなじように苦しい妹には効いたみたいだ。さっきまで自慢していたのに焦り始めている。

「い、いいよ。私はおなかいっぱいだし。たくさんあるから明日も食べられるし」
「そんな事言わずにさ。ちょっとだけでも食べてくれればいいからさ」

 その言葉に箸を昆虫へと近づけていって掴んだ。パリッと乾いた音が響く。それを口元へと運ぶ妹を見ていられなくて視線をそらす。

「ほんとに食べたら食べるんだよね?」

 あ。ああ。と曖昧の返事をしてしまったことで後悔することになる。思いっきりかぶりついた妹はなぜか自慢気な表情をし、それからしばらくの間、食卓に昆虫食が並び続けた。
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