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嘘・灯台・カミキリムシ
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「ねえ。嘘だと言ってよ」
自分の口から飛び出たことだなんて思えないくらい冷たいその口調。その言葉は間違いなく目の前に人に届いている。それは見慣れた顔が驚いた表情をしていることからも分かる。
ちゃんと届いているし、目の前に広がる光景は嘘じゃないんだ。
「なんでこんなところに……」
それはこちらのセリフだ。まさかこんなところでばったり顔を合わせるなんて思いもしない。大体、今日は家にいるはずじゃなかったのか。こんな家から車で三時間もかかる海沿いになんでいるのだ。それも知らない女の人と一緒にだ。
知ってる人じゃなくて良かった。なんてことが一瞬頭をよぎって、そんな訳ないじゃないか。十分、最悪だって思いなおす。家にいるはずの彼氏が知らない女と一緒に海を眺めているのだ。それを偶然目撃してしまった。
「私は出かける前に旅行に行くって言ったけど?」
「どこに行くかなんて言ってなかったじゃないか」
えっ? 誰? 知らない女がなんて彼の耳元に向かってしゃべりかけているのを見て、だんだんと悲しくなってくる。
「今はそれ関係ないでしょ?」
「そ、そんなことないだろ。関係ある」
「何がどう、関係あるって言うの?」
それは……と言い淀んでしまった。まったくせっかく太平洋を一望できる灯台にやってきて気分は爽快。都会の喧騒から解放されて浮かれていたっていうのに。浮かれているのは私だけじゃなかったわけだ。
「あなた誰ですか? うちの旦那にそんな態度取って。どういうつもり?」
その言葉に口があんぐりと大きく開いてさらにはふさがらない。
「なに旦那って。結婚してたの? どうやってよ」
「どうやってって。ふつうにだよ」
「なにどういうこと? あなた、私に黙ってなにしてたの?」
「そんな浮気する時間なんてどこにもなかったじゃない」
「ほとんどを家にいてどうやってそんなこと可能だったって言うの?」
「昨日もおとといもうちにいたのに」
もはやその場にいる全員の感情があふれ出して収集が付かなくなり始めている。誰がしゃべっているのかもよく分からなくなってきた。
「えっと。いや。俺、実は仕事してないんだよね」
衝撃の発言に知らない人とふたり大きな口を開けてポカンとしてしまう。
「「仕事に行ってるって言うのは嘘ってこと?」」
仕事にいったことにして、向こう側に行っていたと言うことか。意味が分からない。収入はどうしていたというのだ。考えなきゃならないことが色々生まれ始める。
しかも向こうと結婚しているという事実がだんだんと効いてきている。私はサブだったんだ。
「もういい。私は帰ります。あと、うちにはもう帰ってこないで」
そう捨て台詞を放つと、一緒に旅行に来た人のもとへと急ぐ。
「おいっ。ちょっとまてって」
待つわけがない。たとえカミキリムシが背中についているって言われたって嫌だ。
「背中にカミキリムシがついてるぞ」
えっ。うそでしょ。そう慌てて背中を確認しようと首を必死に動かす。
「おい。いつまで待たせるんだよ」
一緒に旅行をしている人が近づいてきて、背中いじると何やら遠くへと放り投げた。
「これで大丈夫だろ。ほら、行こうぜ」
あー。そうだね。彼に見られただろうけれど。もう問題ない。これでお互い様だきっと。
後ろでなにやら叫んでいる彼と会うことはもうないだろう。そう、こっそり旅行をしている相手の腕に体をくっつけた。
自分の口から飛び出たことだなんて思えないくらい冷たいその口調。その言葉は間違いなく目の前に人に届いている。それは見慣れた顔が驚いた表情をしていることからも分かる。
ちゃんと届いているし、目の前に広がる光景は嘘じゃないんだ。
「なんでこんなところに……」
それはこちらのセリフだ。まさかこんなところでばったり顔を合わせるなんて思いもしない。大体、今日は家にいるはずじゃなかったのか。こんな家から車で三時間もかかる海沿いになんでいるのだ。それも知らない女の人と一緒にだ。
知ってる人じゃなくて良かった。なんてことが一瞬頭をよぎって、そんな訳ないじゃないか。十分、最悪だって思いなおす。家にいるはずの彼氏が知らない女と一緒に海を眺めているのだ。それを偶然目撃してしまった。
「私は出かける前に旅行に行くって言ったけど?」
「どこに行くかなんて言ってなかったじゃないか」
えっ? 誰? 知らない女がなんて彼の耳元に向かってしゃべりかけているのを見て、だんだんと悲しくなってくる。
「今はそれ関係ないでしょ?」
「そ、そんなことないだろ。関係ある」
「何がどう、関係あるって言うの?」
それは……と言い淀んでしまった。まったくせっかく太平洋を一望できる灯台にやってきて気分は爽快。都会の喧騒から解放されて浮かれていたっていうのに。浮かれているのは私だけじゃなかったわけだ。
「あなた誰ですか? うちの旦那にそんな態度取って。どういうつもり?」
その言葉に口があんぐりと大きく開いてさらにはふさがらない。
「なに旦那って。結婚してたの? どうやってよ」
「どうやってって。ふつうにだよ」
「なにどういうこと? あなた、私に黙ってなにしてたの?」
「そんな浮気する時間なんてどこにもなかったじゃない」
「ほとんどを家にいてどうやってそんなこと可能だったって言うの?」
「昨日もおとといもうちにいたのに」
もはやその場にいる全員の感情があふれ出して収集が付かなくなり始めている。誰がしゃべっているのかもよく分からなくなってきた。
「えっと。いや。俺、実は仕事してないんだよね」
衝撃の発言に知らない人とふたり大きな口を開けてポカンとしてしまう。
「「仕事に行ってるって言うのは嘘ってこと?」」
仕事にいったことにして、向こう側に行っていたと言うことか。意味が分からない。収入はどうしていたというのだ。考えなきゃならないことが色々生まれ始める。
しかも向こうと結婚しているという事実がだんだんと効いてきている。私はサブだったんだ。
「もういい。私は帰ります。あと、うちにはもう帰ってこないで」
そう捨て台詞を放つと、一緒に旅行に来た人のもとへと急ぐ。
「おいっ。ちょっとまてって」
待つわけがない。たとえカミキリムシが背中についているって言われたって嫌だ。
「背中にカミキリムシがついてるぞ」
えっ。うそでしょ。そう慌てて背中を確認しようと首を必死に動かす。
「おい。いつまで待たせるんだよ」
一緒に旅行をしている人が近づいてきて、背中いじると何やら遠くへと放り投げた。
「これで大丈夫だろ。ほら、行こうぜ」
あー。そうだね。彼に見られただろうけれど。もう問題ない。これでお互い様だきっと。
後ろでなにやら叫んでいる彼と会うことはもうないだろう。そう、こっそり旅行をしている相手の腕に体をくっつけた。
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