三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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廃村・白湯・つむじ

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 目の前にあるつむじをじっと見つめていると目が回ってきた気がしまうほどその人のつむじは渦を巻いていた。

 満員のバスの中で目の前にきた子が小さいのもあってついつい視線がそこへ集中してしまった結果だ。けっこう都心から離れた場所へ向かっているはずなんだけれど、こんなに人が集中して乗るとは思わなくて。大荷物の身としては申し訳なくなってくる。

 バスには荷物置きもなく、大きなリュックサックを背中にしょったまま。きっと数人が邪魔だなと腹の中に抱えているはずだ。仕方ないじゃないか。こんなに乗ってるなんて思わなかったんだ。

 誰にでもなく心の中で頭を下げ続ける。

 こんな人が住んでいないような場所にこれだけの人がいるのだと。バスの窓から見える山しか見えない景色を見渡しながら考える。

 バスが通っているのだから人はそれなりに暮らしているのは当然で、そこにはちゃんと生活というものが存在してるのは確かなのだが、都会のビルの中で育った身としてはやっぱり信じられなかった。

『次は〇〇ー。〇〇ー』

 知らない地名に加えて、大人数に阻まれた結果到着バス停をちゃんと聞き取れなくて、どうにか確認しようと表示されているモニターを確認したいと思っても、それすら人ごみに阻まれる。

 まだ、目的地じゃないはずだけどな。

 バスで三十分ほどかかるはずだった。今はまだ十分くらいか。だいたいこんなに大勢の人が行くはずがない場所だ。少し待っていればきっとみんな降りてすくはずだ。そう考えて考えすぎるのをやめた。

 その予想は当たったみたいで、バスが止まると次々と人が降りていく。バスの中を軽く見渡せば乗っている人なんて一目で数えられるくらいだ。

 やっと落ち着いたと荷物を椅子の上におろすとその隣に座る。

「おや、見ない顔だけど。どこへ行くんだい?」

 ひとりのおばあさんに隣から話しかけられた。小さくて座席に隠れていたけれどずっと座ってたみたいだ。

「あっ。ええ。ちょっとこの先の村に用事がありまして」
「はて。この先には廃村しかないはずじゃが」
「ええ。その廃村にようがあるんです。ちょっとした記事を書いてまして」

 リュックサックの中から小型のカメラをのぞかせておばあさんに見せる。

「そうかい。いろいろ噂される村だし、行きたいのは分かるよ。そうかそうか。久しぶりの客人だねぇ。ほら。これでも飲みなさい。寒かっただろ?」

 おばあさんはどこからか水筒を取り出して蓋を開け。その蓋に中身を注ぎ込む。そしてそれをこちらに差し出してきた。

 湯気がただようあったかい飲み物。透明だけれど。これはなんだろう。

「これは……」
「白湯さ。だだのお湯だよ。けど、冷めた体にはそれがちょうどいいんだ」

 ありがとうございます。と身体が冷めていたのは事実なので感謝しながら口へと運ぶ。すると、違和感があって気のせいかと一度、スルーして口へと運び、その違和感が間違っていなかったと知る。

 冷たっ。

「おばあさんこれっ……えっ」

 隣には誰もいない。けれど手には冷たい水の入った水筒の蓋。

『次は〇〇村。〇〇村ー』

 目的地がアナウンスされたけれど。どうしてもバスから降りる気になれなくて。そのまま水をこぼさないように終点までジッとしていた。
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