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息子・面接・背中
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息子には三分以内にやらなければならないことがあった。
パソコンのモニタを前に緊張している息子を見ているとこちらまでハラハラしてくる。それと同時に、頭を下げたくなる。ごめんね。こんな所に住んでいるばっかりに、余計な思いをさせて。
高校卒業間近の息子とふたりで暮らしているのは程よく郊外に存在し、最寄り駅が三つほどあるくらいには不便な場所。そこでさらに1LDKだと言うのだからなんの言い訳も出来やしない。
寝室もいまだに一緒。年頃の息子としては思うこともあるだろうに、これまで文句を言われたことは一度だって無い。良い息子に恵まれたものだと思う。
そんな息子はジッとしたまま動かない。きっと動けないのだろう。後ろから声を掛けてあげたしい、背中を一押してあげたいけれど、おそらく映ってしまってはマズイのは分かっているので少し離れたところからジッと見守り続ける。自然と両の手のひらを合わせて祈るように力を込めていた。
ちらっと息子の前のモニタを覗き込んで見る。分割された画面に息子とおなじくらいの歳の子達が並んでいる。いち、に、さん、し……合計八人だ。
集団面接を家でやるなんて言い始めたときは何を言い始めるのだと自分の耳を疑っていたし理解も追いつかなかったが実際見てみるとなんとなく理解できた。自分のときにはそんな未来が待っているなんて想像もしていなかったことができるようになっているのだと改めて思ったりなんかもした。
大学にも行かず、就職すると決めた息子に無理やり進学を進めることは出来なかった、正直自分から言ってくれてホッとする部分だってあった。息子もそれが分かっていたから就職を決めたんだと思っている。だからこそ、ホッとしつつもやっぱり申し訳ない気持ちは大きい。
だいたい、家が狭くて親に見守られながらのオンライン面接なんて普通のより緊張する。寝室に隠れていたって声は聞こえるし、ハキハキ喋らなくては先方への印象も悪いだろう。必然的に息子の声は良く聞こえる。でもそれも先程までのこと。
グループワークをしなければならないらしいとは聞いていたし、イヤホンから漏れる音で今がその時間だと言うのは把握している。そこで三分間の時間を与えられたらしいのだけれど、始まってから息子はちっともしゃべっていない。時折うなずいたり、返事はしているがそれだけだ。
三分以内になにか意見を言わなきゃ、落ちちゃうよ。
そう言ってあげたいがマイクに声が入ってしまっては元も子もない。紙に書いて眼の前に出してもいいが、カメラに映り込んでしまう可能性もある。だいたいどこまで映っているのだろう。狭い家を映し出されているのはそれはそれで恥ずかしかったりもする。
見守ることしか出来なくて、じれったさが段々と積もっていく。
これからはきっとこう言うことも増えていくんだろうな。それは息子が大人になって私の手を離れていく証拠だ。せめて手が離れてしまっても、ずっと見ていたいなと、すっかり父親そっくりな背中を見ながらそう思った。
けど、いい加減発言しておくれ息子よ。こんなんじゃ落ち着いて見守り続けられやしない。
まだまだ手がかかりそうな息子が息を吸い込み覚悟を決めたのが見て取れた。
パソコンのモニタを前に緊張している息子を見ているとこちらまでハラハラしてくる。それと同時に、頭を下げたくなる。ごめんね。こんな所に住んでいるばっかりに、余計な思いをさせて。
高校卒業間近の息子とふたりで暮らしているのは程よく郊外に存在し、最寄り駅が三つほどあるくらいには不便な場所。そこでさらに1LDKだと言うのだからなんの言い訳も出来やしない。
寝室もいまだに一緒。年頃の息子としては思うこともあるだろうに、これまで文句を言われたことは一度だって無い。良い息子に恵まれたものだと思う。
そんな息子はジッとしたまま動かない。きっと動けないのだろう。後ろから声を掛けてあげたしい、背中を一押してあげたいけれど、おそらく映ってしまってはマズイのは分かっているので少し離れたところからジッと見守り続ける。自然と両の手のひらを合わせて祈るように力を込めていた。
ちらっと息子の前のモニタを覗き込んで見る。分割された画面に息子とおなじくらいの歳の子達が並んでいる。いち、に、さん、し……合計八人だ。
集団面接を家でやるなんて言い始めたときは何を言い始めるのだと自分の耳を疑っていたし理解も追いつかなかったが実際見てみるとなんとなく理解できた。自分のときにはそんな未来が待っているなんて想像もしていなかったことができるようになっているのだと改めて思ったりなんかもした。
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だいたい、家が狭くて親に見守られながらのオンライン面接なんて普通のより緊張する。寝室に隠れていたって声は聞こえるし、ハキハキ喋らなくては先方への印象も悪いだろう。必然的に息子の声は良く聞こえる。でもそれも先程までのこと。
グループワークをしなければならないらしいとは聞いていたし、イヤホンから漏れる音で今がその時間だと言うのは把握している。そこで三分間の時間を与えられたらしいのだけれど、始まってから息子はちっともしゃべっていない。時折うなずいたり、返事はしているがそれだけだ。
三分以内になにか意見を言わなきゃ、落ちちゃうよ。
そう言ってあげたいがマイクに声が入ってしまっては元も子もない。紙に書いて眼の前に出してもいいが、カメラに映り込んでしまう可能性もある。だいたいどこまで映っているのだろう。狭い家を映し出されているのはそれはそれで恥ずかしかったりもする。
見守ることしか出来なくて、じれったさが段々と積もっていく。
これからはきっとこう言うことも増えていくんだろうな。それは息子が大人になって私の手を離れていく証拠だ。せめて手が離れてしまっても、ずっと見ていたいなと、すっかり父親そっくりな背中を見ながらそう思った。
けど、いい加減発言しておくれ息子よ。こんなんじゃ落ち着いて見守り続けられやしない。
まだまだ手がかかりそうな息子が息を吸い込み覚悟を決めたのが見て取れた。
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