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アコースティックギター・またぎ・古着

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 押し入れの奥を整理していて思わずビニール袋のに無作為に詰め込んでいた手が止まった。大量の古着の山。それを家の誰かが着ていたイメージがまったくなくてしばらく思考を巡らせる。おそらく男性物。ファッションには疎くてちっとも年代を特定できそうになかったが今、街でそれを着ても対して目立たないような気がする。ファッションは巡ると言うし、何周も前の物なのだろうか。けれどそれがわかったところで誰のものかを特定するのには至らない。

 とは言え、選択肢は少ない。祖父、父、叔父、兄、自分。まず自分と兄は除外だ。見たことがない服だ。奥にしまってあったのもある。父も、叔父も若い頃にこの家を出ていったと聞いているしどちらかのものだろうか。

 祖父ってことはないよな。

 またぎだった祖父の着ているものはいつもおなじだった。森で動きやすい
格好だ。とてもじゃないがこんなおしゃれな服を持っていたとは思えない。

 母にでも聞いてみようか。次に東京に戻るのはちょっと先の予定だから先に写真でも送って確認してみようかなんて思ったけれど、わざわざ聞くまでもないことだと思い、やめた。

 作業を進めようと、その古着たちもビニール袋へと入れていく。ただし新しいやつに、それと分かるようにだ。

 祖父母の家を近いうちに取り壊すから、家の中の片付けをしてほしい。もちろん報酬も出す。それは就職も出来ずに手が空いていた自分に取っては都合のいい案件だった。素直に頷き田舎まで足を運んだ。そうして延々と続きそうな位ものに溢れたこの家を片付けている。時折こうやって不思議なものを見つけては考え事に耽るのは悪くない行為だと思える。今の家に引っ越すまで住んでいたはずなのに、知らないことが多すぎる、不思議な家に愛着も湧いてきている。

 アコースティックギターを見つけたのは古着を見つけた次の日だった。父や叔父が弾いているのを見たことはない。もちろん兄もだ。そう考えた時、祖父がアコースティックギターを構え、古着を着ているイメージが浮かんだ。

 あれだけまたぎとして一貫して生きていた祖父が聞き慣れないメロディを奏でているなんて想像もできないはずなのに、そのイメージがあるってことはおそらく見たことがあるんだ。

 まだ知らない祖父の姿があるのだと思うと当然なのだけれど不思議な気もしてくる。若い頃の祖父が何を思い、どう生きてきたかなんて知るよしもないのだ。

 生きているうちにもっと話をしておけばよかったのかな。

 そう思うと、父や母にも同じことが言えるなとも思う。そう思ったらやるべきことがちょっと見えた気がした。それが仕事につながるかわからないけど、今やりたいことだと確かに思えたんだ。
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