三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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護身・誤診・車輪

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 車輪が路上に落ちていた。おそらく自転車のものだと思うんのだけれど、知っているものよりちょっとゴツい気がする。だからといってバイクではないし、マウンテンバイクとかのトゲトゲした感じとはまた違う。普通の自転車の車輪に近いのだけれど、それがちょっとだけゴツい感じ。

 どうにかしたようが良いのかと考えるが、どうしようもない気もする。警察に届けたところで相手にもされないだろう。放って置くかと、その横を通り過ぎようとしたところ、声をかけられた。

「おいっ。そんなところにゴミを捨てちゃいかんだろ」

 知らないおじさんが声を荒らげながら近づいてきた。

「えっ。いや、そんなこと言われても僕も知らないんですが……」
「だからって、見過ごしてたら同罪だろうが。なんとかしとけよ」

 えっ。そう言うなら自分で片付ければいいと思ったけれど、きっと言うだけ無駄なのだろう。そんな感じを自ら醸し出している。大人しく従ったほうがいいような気がする。こんなことなら護身術でも習っておけばよかった。

「はぁ。分かりました」

 そうして車輪と言う手荷物を増やして周りの人に妙な目で見られながら歩き続ける。そうしながらもずっとこの車輪をどう処理するのかを考え続ける。どうしたらいいものか。自転車屋さんに持っていったら処分してくれるものなのか。宛もないし、ひろってしまったらにはその辺りに捨てるのも忍びない。行くしかないのか。

「いらっしゃいませー……おや?」

 自転車屋さんに入るなり店員さんが不思議そうな顔をする。

「その車輪。うちだと直せないですよ?」

 パッと見ただけなのにそう言われて驚いてしまった。

「そうなんですか。でもこれを処分したいだけなんです。引き取ってもらえますか?」
「え……いや、無理かな。自転車に関係あるものだけしかやってないし」
「えっ。これってなんなんですか?」
「さあ? 見たことないんだ。申し訳ないけど」

 見たことないから自転車じゃないって判断したってことか。それってもしかしたら誤診である可能性だってあるじゃないか。このまま持って帰るなんてことしたくないから簡単にも引き下がれない。

「車輪は車輪なんだからいいじゃないですか」
「そうは言ってもね。車輪にだっていろんな種類があるし、大体……まあ、いいか。ただ処分料はいただくよ。それは構わないかい?」

 急に態度が変わったのが気になったけれど、捨てられるんだと言うこと、それと同時に拾っただけなのになんでお金を払わないといけないのかと憤り始めていた。けれど、ここでごねて相手の機嫌を損ねたほうが面倒なことになりそうなので、大人しく従った。

「えっと、いくらですか?」
「500円でいいよ」

 普通の金額に拍子抜けする。これくらいの出費なら我慢できる。

「ではよろしくお願いします」

 身軽になって少し気分が良くなった気がしたが、損しかしていないことに気づき、落ち込み直すのはもうちょっと先のことだ。
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