三題噺を毎日投稿 3rd Season

五寸釘・一輪車・季節外れ

　五寸釘が打ち付けられているのを見つけてしまって血の気が引いていくのがわかった。通り慣れた道から少し外れたところにある神社。神主の姿も見たことがないくらいはいつでも寂れている印象だ。初詣に行く選択肢に入ったこともないので元旦の盛り上がりも知らない。

　そんな神社の境内。石畳を外れた少し暗くなった木のひとつ。そこに五寸釘が藁人形を貫通して木に突き刺さっている。そして藁人形には確かに髪の毛が一本一緒になって釘に刺さっている。

　脅迫状みたいな手紙が下駄箱に入っていたのは今日の放課後のことだ。最初はゴミでも入っているのかと思ったのだが、よく見てみたらそうではなかった。白い封筒があってその中に一枚の紙が入っていた。そこにはなにかのメッセージが書かれているわけではなくて、今いる場所の地図が入っていただけだ。

　当然無視することは出来たのだけれど、あまりに気になったのでやってきたのだけれど。今は足を運んだことに後悔している。

　これって呪いってやつだよな。

　誰を呪っているのか分からないけれど少なくとも自分のところへと送られてきたのだ。関係がないとは考えにくい。というかほぼ間違いなく自分の毛だよな。

　知らなきゃよかった。

　知らなければなんの心労もなかっただろうし、もしかしたら効果すらなかったはずで気が付かなかった。けれどこうやって目の辺りにした今、いつその呪いの効果が訪れるのが不安でたまらない。

　誰だ。誰がやったんだ。こんな悪質ないたずら。洒落にならない。クラスメイト？　　部活？　それとも学校外か。だとしたら、水泳、体操、一輪車。色々やってきたけれどどれもすぐに飽きてしまって長続きもしていない。当然恨まれる覚えもない。けれど学校だって目立つ方ではない。当然そこでも覚えがない。

　とりあえず抜けば良いのか。抜いて良いものなのか。それすらもわからない。どうしていいかわからずオロオロしている間にあたりは暗くなってくる。迷っている時間もない。暗くなってしまったら歩くのもままならない場所だ。早く決めなくてはならない。

　心臓が速くなっていく。高まりきったその瞬間勢いよく五寸釘を引き抜いた。

　引き抜いたつもりだった。けれど、その五寸釘はいくら引っ張っても抜けきらない。いくら後ろに下がってもだ。怖くなってそのままその場を走り去った。

　次の日、その場所におそるおそる行った。けれど、そこにはなにも残っていなかった。いたずらした人が片付けたのか。だとしても引き抜けないほど長い釘だ。どうやったのかも想像できない。

　それからずっとそのことを毎日のように思い出しながら生きていくのだろう。それでいたずらをした人の目的は達成されてしまったのだ。それをどうすることもできないことにただただ、悲しくなるだけだ。季節外れの強風が神社を通り抜けた。