三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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人魚・江の島・電脳世界

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 まるで電脳世界にまぎれこんだとしか思えないくらいには目の前の光景は現実離れしていた。

 海の底から見た海面は太陽の光を反射しているのかキラキラとして見えた。それをずいぶんと下から見上げているのがちゃんと見えているのがどうやって可能にしているのかちっとも分からないがキレイなのは確かだ。光は海底に届くはずもなく、あたりは真っ暗なはずで、こんな風にのんびり見上げている場合じゃない。そしに足元に広がる光景も理解できない。

 石造りの家が立ち並び、そのひとつひとつから柔らかい光が漏れている。そこに誰かが住んでいるのは間違いないのだろう。ちらっと隣にいるここの住人のひとりに目をやる。

 さきほど江ノ島の海岸であったばかりの女性だ。観光客が立ち入らない少し人気がないところで具合が悪そうにしていたところを手を貸した。最初は少し恥ずかしそうに、時折気まずそうにしていたのだけれど、たまたま持っていた南アルプスの水を飲ませたところ、急に態度を変えた。

 こんなにおいしい水を飲んだことがないとテンションが天井までたどり着いてしまったのだ。そのまま、わたしたちのところへ特別に案内すると手を引っ張られた先は海の中だった。

 抵抗する暇もなかったし、その力が思ったよりも強かったのもあって、気づけば海中だった。そして不思議と目を開けても普段となにも変わらないことに気づき、呼吸も出来た。どうなっているのかと手を引いた女性に目をやると彼女の足が魚の尾びれに変わっていた。

 人魚だ。

 そう言葉にできたのか分からない。なにせ水中だ。自分の耳にも届いていない。けれど、人魚がこちらを向いてにっこりと笑ったのだ。おそらくちゃんと言葉にできていたのだ。

 そうして案内されたのが今いる海底都市とでも言う場所だ。きっと招待されたのだろうけれどここからどうされるのかまったく想像もできやしない。

 地上に無事に戻れるのだろうか。不安も大きい。けれど、こんな未知の世界が広がっていることへの好奇心のほうがはるかに大きい。

 ふと不安になるこれは夢じゃないよな? 江の島で眠ってしまっているだけとかそんなオチは勘弁だ。

 水の抵抗を感じながらほっぺをつねってみる。水の感触が大きすぎて遺体にはいたいのだけれど幻覚な気もしてくる。

 不思議そうにこちらを見ている人魚に、とりあえず今を楽しむことにして、余計なことを考えるのをやめて一歩を踏み出した。それはきっと人類の偉大な一歩になるはずだ。
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