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山姥・G線上のアリア・箸休め
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山姥の役をやれだんてまったくもって冗談じゃない。そう憤慨しながら部活の会議をあとに帰路についていた。
悔しいことに全会一致での山姥役の認定だった。去年の学園祭の演目はヒロインだったのにも関わらずだ。ヒロインを襲う山姥に指名されたのは間違いなくみんなの目から私がヒロイン役の後輩に意地悪しているように見えているからだ。
別にそんなつもりはないんだけどな。
意地悪なんてしていない。確かに向こうからは避けられているのも分かるし稽古中によく文句を言ったりもするし、それが原因で部活内の空気が悪くなることもしばしば。けれど、それは彼女のためを思えばこそである。
まあ、最初は彼女の才能に嫉妬もしたし妬みの気持ちが一切なかったかと問われればそんなことはない。私だって人の子だ。いくら才色兼備と周りから褒め称えられていようともそんな感情に支配されそうにもなる。
けれどそれよりも彼女の才を認め、共に高みを目指した方がいいと思ったのだ。けれど、それを言葉にしたこともあからさまな態度にしたこともない。
だからなのか。
周りからはヒロインをいじめている山姥に見えているのだ、きっと。
演目だってその関係性ありきの決定だったのかと疑ってしまうほどだ。
ああ。まったくストレスが溜まる一方だ。
スマホを操作してG線上のアリアを流し始める。これが心を落ち着かせるいつもの曲。そうなってから十年以上経っているルーチンみたいなもの。
けれど今日はどうにも落ち着かない。自分の意見が通る余地もなかったことへの苛立ちか。周りの凝り固まった視線への落胆か。自分の中でも整理はいっこうにつきそうもない。
ヒロインである彼女の認めている。けれどこちらは卒業年度。花を持たせてくれたっていいじゃない。そう思う。
G線上のアリアのリズムに合わせてゆったりと動いてみたりする。そうすれば少しは落ち着けるかと思ったのだけれど、逆効果。ゆったりの中で感情だけが激しく揺れ動く。
箸休めじゃないが違う曲にしたほうがいいのかと考え始めた瞬間だった。
「あの。今回の配役ですが。私の実力ですから」
そう後ろから声を掛けられた。わざわざ追ってきてそれを言いに来たのか。それは嫌がらせでしかない。
「そう。じゃあ、私も全力でやらせてもらうわ。泣かないでよね」
売り言葉に買い言葉だ。思ってもないことを言ってのける。ほんとはその役をよこせと思っているのに。
「じゃ、それだけですので」
彼女のが行く先には仲間が数人迎えてくれている。私が行く道にはだれもいない。
だからどうした。そう自分に言い聞かせ。もう頭では山姥のイメージを膨らませ始めていた。
悔しいことに全会一致での山姥役の認定だった。去年の学園祭の演目はヒロインだったのにも関わらずだ。ヒロインを襲う山姥に指名されたのは間違いなくみんなの目から私がヒロイン役の後輩に意地悪しているように見えているからだ。
別にそんなつもりはないんだけどな。
意地悪なんてしていない。確かに向こうからは避けられているのも分かるし稽古中によく文句を言ったりもするし、それが原因で部活内の空気が悪くなることもしばしば。けれど、それは彼女のためを思えばこそである。
まあ、最初は彼女の才能に嫉妬もしたし妬みの気持ちが一切なかったかと問われればそんなことはない。私だって人の子だ。いくら才色兼備と周りから褒め称えられていようともそんな感情に支配されそうにもなる。
けれどそれよりも彼女の才を認め、共に高みを目指した方がいいと思ったのだ。けれど、それを言葉にしたこともあからさまな態度にしたこともない。
だからなのか。
周りからはヒロインをいじめている山姥に見えているのだ、きっと。
演目だってその関係性ありきの決定だったのかと疑ってしまうほどだ。
ああ。まったくストレスが溜まる一方だ。
スマホを操作してG線上のアリアを流し始める。これが心を落ち着かせるいつもの曲。そうなってから十年以上経っているルーチンみたいなもの。
けれど今日はどうにも落ち着かない。自分の意見が通る余地もなかったことへの苛立ちか。周りの凝り固まった視線への落胆か。自分の中でも整理はいっこうにつきそうもない。
ヒロインである彼女の認めている。けれどこちらは卒業年度。花を持たせてくれたっていいじゃない。そう思う。
G線上のアリアのリズムに合わせてゆったりと動いてみたりする。そうすれば少しは落ち着けるかと思ったのだけれど、逆効果。ゆったりの中で感情だけが激しく揺れ動く。
箸休めじゃないが違う曲にしたほうがいいのかと考え始めた瞬間だった。
「あの。今回の配役ですが。私の実力ですから」
そう後ろから声を掛けられた。わざわざ追ってきてそれを言いに来たのか。それは嫌がらせでしかない。
「そう。じゃあ、私も全力でやらせてもらうわ。泣かないでよね」
売り言葉に買い言葉だ。思ってもないことを言ってのける。ほんとはその役をよこせと思っているのに。
「じゃ、それだけですので」
彼女のが行く先には仲間が数人迎えてくれている。私が行く道にはだれもいない。
だからどうした。そう自分に言い聞かせ。もう頭では山姥のイメージを膨らませ始めていた。
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